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俺が庭師でキミがメイドで


「なぜメイドをやらないのか」


 学食の片隅でオレはテーブルを叩いて何故と問うた。

 オレの怒りを無言で受け止めたテーブルも、さぞ理不尽を感じているだろう。


「さっきの部会で何を聞いてたんだオマエは」


 対面に座っている部長が呆れた顔で言った。


「聞いていた。聞いていたよ。彼女たちがメイドをやりたくない理由を、聞きたくないけど聞いてしまったよ。何が『衣装を作るのに時間もお金もかかるし、恥ずかしいのでやりたくない』だ。そんなんでメイドが務まると思ってんのか!」


「いや、だからあのコたちメイドやりたくないって言ってんじゃん。ホント人の話ちゃんと聞け」


 オレの拳はテーブルの上でふるふると震えていたが、今度はテーブルを叩かない。だって思ったより痛かったから。


「……伝統なのに……メイドカフェは伝統なのに……」


 オレの所属するサークルは、毎年大学祭の模擬店でカフェをやっている。これならどこにでもあるサークルとそれほど変わらないだろう。が、なんと驚け。ウチのサークルのカフェはウェイトレスがメイドさんなのだ。

 今からさかのぼる事二年前。いかにも素人っぽいメイドさんにコロリとやられ、その日の内に入部届けにサインしたバカがいた。オレだが。


「うーん。伝統って言っても悪しき伝統って方だし、嫌がってる女子に無理やりっていうのもおかしい話だ。それに知ってる? ウチのサークルってメイドカフェのせいで学生自治会から睨まれているんだぜ」


「ふん。別に風俗や賭場を開こうってわけでもないのににらんでくるとは、ケツの穴の小せえ連中だ。そんなにメイドが怖いか」


「ボクはお前の考え方に恐怖を感じるよ。良いんじゃないか。やらなくても。メイドをやったら売上が増えたって訳でもないし。学祭の収益は変わらないんだろ? 元会計くん?」


 部長は眼を細めてオレの元役職を呼んだ。

 さっきの部会でオレは女子たちに向かって、


――みんなは時間と金がかかる事を嫌がる理由にあげた。だが、これを一挙に解決する方法がある。コスプレショップで買ってくるのだ。購入費用は部費から出すから


――恥ずかしい? ならみんながメイドになるならオレは全裸になろう!


 学祭の打ち合わせだった部会は、一瞬にして現職会計への不信任決議と弾劾裁判と化した。

 オレは説々とメイドの素晴らしさを説いたが、孤軍奮闘虚しく、多数決の前に敗れ去った。


「どうしてそんなにメイドにこだわるんだ? 『お帰りなさいませご主人様』って言われて嬉しいのか?」


「ふん。そんな男優位の支配的な歪んだ欲望の低俗なヤカラとオレを一緒にするなよ。オレは自分の知っている女子がメイドさんの格好をしているという事実だけでエキサイトするのだ」


「身近になった分より低俗かつ歪んでいると思うんだが」


 見れば部長が拳一つ分ほどテーブルから離れていた。素でひかれてしまったらしい。


「いや、オレにとってメイドさんという存在はだな。かしずかれて身の回りの世話をしてくれる女性じゃなくてな。こう、もっと一人の人間として独立して尊いものなんだよ」


 部長は表情だけで「意味が分からない」と言った。

 言ってるオレ自身がよく分かっていないのだから無理もない。

 だが、一つ分かっている事がある。

 それは、オレがメイドさんに対して邪な気持ちを一切持っていないという事だ。

 きっとオレはメイドさんの事を想いながら、筋斗雲に乗れるだろう。

 どうにかして、オレのメイドさんに対する熱く真っ直ぐな気持ちを伝えようと、たとえ話をする事にした。


「いいか? 今からわりと突飛な話をする。ちゃんとついてこいよ。話の舞台は、メイド文化華やかに咲きほこりし頃のイギリスだ」


「本当に突飛だな」


「たとえだよ。た・と・え! 分かりやすく説明したいからたとえ話を持ち出すんだよ。だからお願いですから聞いて下さいご主人様」


「まあ、そうまで言うなら少しぐらいは」


「ありがとうございます。って何でオレ下手に出てんの? まあいいや。主人公はオレね。最近ようやく一人前になった庭師なの。で、ヒロインは地方から伯爵家に奉公に出てきた美しい少女。物語は、館の庭園の手入れをする庭師のオレが、少女と出会うところから始まる――」



――オレの名前はオリバー(仮名)。三代前のジイちゃんの代から、伯爵さまの庭園を預かっている庭師だ。



「オリバーって誰だよ」


「オレの事だよ」


「オリバー? お前が?」


「…………仮名だから。雰囲気で」


「オリバーツイスト?」


「イギリスっぽいから。続けるぞ」



――オレが彼女と出会った日の事を今でもよく覚えている。

あれは確か春。いや違った。夏だったか。秋だったような。冬だったような。春だったような。



「四季が一回りしたぞ」


「ごめん。ぶっちゃけそのへん設定曖昧」



――とにもかくにも、ある日、オレはバラ園の垣根を手入れするため、高枝切りバサミを手にハシゴを



「高枝切りバサミ持ってんのにハシゴ使ったの? どっちか一つでよくないか?」


「じゃあ、ハシゴはやめとくわ」



――ハシゴを使うのは何か気分的な問題でやめたオレは、高枝切りバサミで垣根の手入れを始めた。

と、正門から馬車の音が聞こえる。

誰かが来たみたいだ。

…………。



「どうした?」


「……いや。今からのシーンにハシゴがないと物語が進まないんだよな。垣根があるから。どうしよう」


「じゃあ、高枝切りバサミは置いてきて、ハシゴを持ってこれば?」



――やっぱり、高枝切りバサミは置いてきて、ハシゴを持ってきたオレは、垣根の向こう、馬車から一人の老婦人と、オレと同い年くらいの少女が降りてくるのがよく見下ろせた。

老婦人の方は、この伯爵家に長く奉公する女中長だ。

かたわらの少女の方は、初めて見る顔だが、おそらく、新しく伯爵家に奉公に上がったメイドだろう。

女中長は、厳しい顔つきで少女に、


「おい、お前目がイッちゃってるけど大丈夫か?」 


と聞いた。

 いや、女中長はそんな事言っていない。

 女中長は「このお屋敷が、今日から貴女が働く事になる伯爵さまのお屋敷です」と言ったのだ。

 少女は俯き気味のまま、女中長に、


「ごめん。その話長くなりそう?」


 と言っていない。

 言ったのは部長だ。

 オレは頭でテーブルを叩く。ガインと音がして、出会いのシーンで少女マーガレット(仮名)が見せた一筋の涙や、月光の下、青く染まった花園で少女が好きだと言った花の名前や、故郷の許嫁とオレとの間で揺れ動くマーガレット(仮名)の迷い。そして永遠の別れと墓前に供えた約束の花。その全てが粉々に砕け散った。


「なんだよ。今良いとこだったのに」


「良いとこだったから止めたんだよ。お前、今完全に越えてはいけない一線越えてたぞ。ボクがイッちゃってる目で、自分を主人公にしたスペースオペラな冒険活劇の話を始めたらお前どうする?」


 オレは少し考え、思った事を口にした。


「とりあえず適当に話やめさせて、ケータイからお前のアドレス消す」


「そうか」


 と、部長がケータイを取り出したのでオレは慌てた。


「ウソウソ! さすがにそこまではしないって!」


「しないのか。まあ、お前の与太話はさておいて」


 そこで部長は視線をオレの肩のあたりに移動させた。

 いや、肩ではない。オレの背後を見ているのだ。


「彼はどうやらメイドに対していささか常軌を逸する情熱を持っているようだが、キミたちはどう思う?」


 後ろのテーブルについていたのは、後輩女子の仲良しグループだった。


「どう思う? って言われましても……」


 一人の女子がとまどいを見せる。

 すかさずオレはダメ押しの一手を打った。


「オレのためにメイド服を着てくれないか?」


 この単刀直入な一押しに、彼女たちの心は一気に傾いたようだった。


「絶対イヤ」


 不可の方向に。


                    ―― end.


 ◆『ここ』とは違う世界観の別の物語 ◆


    

     

 目が合ったのは一瞬。

 しかし、鼓動を跳ね上がらせるのは一瞬でも充分な時間だったようだ。

 跳ね上がった鼓動は動揺を呼び、


「あ」


 バランスを崩した俺は、立て掛けたハシゴもろとも不様に地面に落下した。


「くうっ……いってえ~」


 落ちた先が芝生だったのが幸いした。ちょっと背中を打ったぐらいで、どこも怪我をしていない。骨でも折っちまったら仕事にならないからな。

と、


「大丈夫?」


 降りかかってきたのは、そのセリフとクスクスという小さな笑い声。

 そして差し出されたのは少女の手だった。


「大丈夫? 鈍い音がしたよ?」


 少女はお日さまみたいな笑みをより濃くした。

 芝生に尻もちをつけたままの俺は顔が熱を持つのを自覚する。

 さっき目があった少女に恥ずかしいところを見られてしまった。


「あ。アタシ今日からこのお屋敷の奉公に上がりました、ドロシーって言います。よろしく庭師さん」


 ドロシー。ドロシーって言うのかこの子は。

 俺は少女の名を胸にしまうと、自分で立ち上がった。これ以上カッコ悪いとこ見せられないからな。それに俺の手、土臭いし。


「ステキなお庭ね。アナタが手入れをしてるの?」


 俺とジッチャンが精魂込めて手入れしている伯爵さまの庭園を見まわし、ドロシーが言った。


「ああ」


 もっと気の利いた事言えれば良いのに、口から出たのはぶっきらぼうな一言。ああもう。他の顔なじみのメイドとなら、もっと楽に会話ができるのにな。


「ドロシー! 何をしているのです。早くなさい。伯爵さまへ御挨拶に参りますよ」


 女中長さまの声が聞こえて、ドロシーは自分が何をしにこの屋敷へ来たのか思い出したようだった。


「いっけない! それじゃあ、またね庭師さん」


 少女は小さく舌を出して手を振った。

 去ろうとするドロシーに、


「庭師のジャックだ。よ、よろしくドロシー」


 ただ自分の名前を教えるのに、こんなに勇気が必要だなんて知らなかった。


「時間があったら、俺んとこ来いよ。庭園を案内してやっからよぉ。時間があったらで良いんだけど……」


「うん。ありがとうジャック!」


 そう言って、今日からメイドになる少女は女中長さまの元へ駆けて行った。伯爵さまにお仕えするメイドは走ってはいけないという決まりがあるから、ドロシーはきっと女中長さまに小言を言われてしまうだろう。

 俺はハシゴをかけ直すと、仕事を再開した。

 が、どうにも頬が緩んで仕方がない。


「ステキなお庭、かあ……」


 伯爵さまにお褒め頂くよりも嬉しかったと思ってしまうのは、不敬だろうか?

 そうだ。

 とっても良い事を思いついた。

 今度はもうちょっと勇気を振り絞って、彼女の好きな花を聞いてみよう。

 庭の片隅に、こっそりドロシーの好きな花を植えるくらい良いだろう。

 何しろ、俺は庭師なのだから。






       ―― 俺が庭師でキミがメイドで 終

07年に一度書いて、紛失。

その翌年くらいにメモ書きを発見して作品になったような気がします。

もう、内容からしてメイドさんへの狂気しか伝わってこないので、メイドさんへの偏執があったのでしょう。

ほとんど覚えておりませんが。

タイトルは確か、後輩の文芸作品をマネしたはずです。

やりたかった事は、タイトルと関係の薄い話を前面に出し、最後部で、ごく短い本編を書いて、

「実はコッチがタイトルと直結した作品でしたー」

とやる事。

構成のテクニックのつもりで書いたのですが、まったく成果があがりませんでした。下手だからですね。

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