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エピローグ
写真を見つめていると、不思議なことに涙は出なかった。
胸の奥がきゅっと縮んだあの痛みは、いつの間にか温かい光のようなものに変わっていた。
あのとき伝えられなかった言葉も、喉まで出かかったのに飲み込んだ想いも——もう後悔なんかじゃない。
あの日々があったから、人を好きになることの尊さを知った。
傷つくことを恐れながらも、それでも誰かを想い続けることの美しさを知った。
放課後の図書室、何気ない会話、一緒に歩いた帰り道。
美咲と過ごした時間は、私という人間を作り上げてくれた宝物だった。
そうか——私は幸せだったんだ。
伝えられなかったけれど、確かに愛していた。それで十分だったんだ。
私は写真に向かって小さく微笑んだ。
「ありがとう、美咲。」
初めて、心から言えた言葉だった。
写真をそっと封筒に戻し、段ボールを閉じた。
久しぶりに、故郷の空気を吸いに行こう。
新しい街での生活も、きっと素晴らしいものになる。
窓の外では桜がほころび始めている。
私は深く息を吸って、新しい一歩を踏み出した。




