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またね、と言えた日  作者: あさなぎ


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4/5

「またね」

 秋が深まる頃には、教室の空気にも落ち着きが生まれていた。席替えや行事を重ねて、クラスの人間関係は固まっていく。賑やかな輪の中に美咲がいるのは、もう当たり前の光景になっていた。


 私はといえば、その輪の外側にいた。

 一緒に過ごすことはあっても、私が美咲の「一番」になれることはなかった。彼女にとって私はただの友達。親しくても、それ以上ではない。


 そのことを、頭では分かっていた。

 それでも、心の奥では期待してしまう。もし、どこかの瞬間で勇気を出せたなら。もし、ひと言「好き」と伝えられたなら、と。


 ◇


 冬の冷たい風が吹く頃。

 帰り道の分かれ道で、美咲が足を止めた。

「葵、また明日ね」

 その一言に、私は何かを返そうとして、結局「うん」としか言えなかった。


 本当は呼び止めたかった。呼び止めて、振り返った彼女に想いをぶつけたかった。

 冬の空気は澄んでいて、声を出せば届くはずだった。

 けれどそれと同時に、あまりにも脆くて、一歩踏み出せば壊れてしまいそうで。


 私は立ち尽くしたまま、ただ背中を見送った。

 白い息が風にさらわれて消えていくのを、何度も繰り返しながら。

 その消えていく吐息と同じように、勇気も声も、私の中から薄れていった。


 そして気づけば、彼女の姿はもう見えなくなっていた。

 振り返ったときには、静かな道に私ひとりだけが取り残されていた。

 まるで最初からそこに誰もいなかったかのように。


 ◇


 気がつけば、日々は淡々と過ぎていった。

 季節は巡り、やがて私たちは卒業を迎えた。

 校庭の桜はまだ咲いていなかったけれど、空は晴れていた。

 式を終えたあと、校門の前で美咲と向かい合った。


「またね」

 美咲はいつもと同じ笑顔でそう言った。

 「またね」ただそれだけ。その言葉だけを残して、私たちは別れた。


 本当は「好きだよ」って言いたかったのに。

 最後の最後まで、言葉は喉の奥で固まったままだった。


 その「またね」が、本当に最後になるかもしれないなんて、あのときの私は思っていなかった。

 いや、思わないようにしていただけなのかもしれない。


 その後、美咲がどこへ進んだのか、私は知らない。

 連絡先を聞くこともなく、ただ時の流れに押し流されるように、私たちは別々の道を歩き始めた。


 ――あの時、勇気を出せていたら。

 そんな「もしも」を、何度も心の中で繰り返す。

 けれど、それはもう戻ることのない過去。


 私の中に残ったのは、伝えられなかった想いと、あの日々の記憶だけだった。

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