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ネトコン14参加作品

ズボラ男とセールスマン

作者: 白夜いくと
掲載日:2026/02/15




 男は髭の手入れも毎日の衣服も変えないほど、ズボラだった。一足のブランド靴を手に入れるまでは。


「足底腱膜炎になったから買ってみたけど、履き心地がいいな。それにピシッと決まって仕事にも精が出るようになった」


 一足の靴を手に入れた男は、姿勢を意識した。次に髭を剃り靴に釣り合う高値の衣服も買った。

 それだけで満足しようとしたのだが、一つ揃えばまたどこかが気になるもの。男は美容院に行き髪型も整えた。


(他に直すべき所は……)


 男は家で、髪を梳かしながら考えていた。ちょうどいいタイミングでドアホンの音が鳴る。


「もしもし、どなたですか」

「わたくし貴金属の販売・買取をしております今野こんのと言います。お客様は貴金属に興味はございませんか?」

「無いね」


 きっぱりと男は言った。

 今関心があるのは、彼自身の身なりであって投資としての貴金属ではない。男は金に困っている訳ではないから、端から興味など持ちようがないのだ。


「左様でございますか」


 今野は続けて男へ語りかけた。


「失礼ながら。お客様、時計は身につけていらっしゃいますでしょうか?」

「そう言えば、ないな。携帯を取り出して時間を見るのが面倒くさいと思っていたんだ」


 男が食いつくと、今野は「ちょうどいいですね!」と笑顔になり言った。


「今なら特別価格でお売りできますよ。会員アプリに御入会頂くとポイントも付きます」


 どことなくお得に感じた男は、


「時計くらいなら。いいか」


 と、会員アプリに入会してクレジットでプラチナの時計を買った。


(せっかく買ったし、アプリを見てみるか)


 貴金属がたくさん並ぶ中、財布や鞄、帽子なども売っていた。それなりに良い値段がするが、男が買えない価格ではなかった。


(ブランドで固めてても財布がボロじゃなぁ)


 子どもの頃から使っていた貧乏くさい二つ折りのチャック式財布を捨てて、男は革の長財布を買った。鞄も、帽子も、何から何まで会員アプリから購入していった。


 全て、プラチナの時計とお揃いの色だ。男はそのことに心地よさを感じていた。


 こうしてブランドで固めた男は、最終的に一つだけどうしても気になることができた。


(俺……イケメンに成らないかな)


 流石に貴金属の会員アプリに整形情報はない。それに、顔の整形となるとそれなりの額が要る。


 化粧品を試すことも選択肢にあったが、男はすぐ消した。面倒くさい事をするよりも、金を払って解決したかったのだろう。


 確かに鏡に映る男は、身なりは整っていたがイケメンではなかった。


(うーん、バランスが悪いなぁ……)


 男が悩んでいるとドアホンの音が鳴った。今野だった。男はどうすれば良いか相談してみた。金で解決できるのなら、それが一番いいと思ったのだ。


「そうですねぇ……塗るだけで顔色が明るくなるクリームなら有りますが……お高いですよ?」


 男は目の下のクマが気になっていた。だから、血色の良くなるクリームに興味を持ったのだ。塗るだけでいいのならと即決で買った。


 後日また今野は男のもとを訪ねて来た。


「目をうえにむけてパチパチするだけで瞳が茶色くなる目薬も有ります。いかがでしょうか」


 男はカラーコンタクトより手軽だと思い、これもまた即決して購入した。


 男は鏡に映る自分を見て活き活きしていた。しかし、物というのは次第に壊れゆくもので……。


 最初に壊れたのは、意外なことにプラチナの時計だった。ベルトの金具が外れた。それだけなのだが、男はそれがどこまでも気持ち悪く感じた。


(くそ、偽物だったのか?)


 騙されたのかもしれない。

 そう思い、他の貴金属店で時計を見てもらうと、本物のプラチナだと言われた。男はその場で売ることも考えたが、クレームの一つでもくれてやろうと、今野を呼び出した。

 

「ほら簡単に壊れたぞ。今度は、ちゃんとしたのをもう一つ用意してくれ。腕がスウスウしてかなわん」

「……すみません、こちら一点ものでして。責任を持って買取を致します」


 男は納得しなかったが、使えない時計をずっと置いておくのも心地が悪かった。だから時計を売り払った。


 時計を失った心地悪さは、男をずっと支配していた。


(靴以外、全部あの時計のイメージで揃えたのに、今更どんな時計を買うというんだ)


 男は後日また今野を呼び出し、財布や帽子、鞄を売り払った。そうなると、クリームや目薬をする意味もなくなる。


 男は貴金属会員アプリで買ったもの全てを売っ払った。アプリも登録解除し、平穏に戻るかと思われた。


 しかし、


「顔がヒリヒリする……」


 貴金属店のクリームを塗らないと、顔が赤くなってしまう肌質になったのだ。目も太陽に照らされると眩しすぎて前も向けなくなる始末。


 男はもう一度、今野を呼び出した。


「クリームと目薬だけでも売ってくれないか?」


 そう言うと今野はニヤリと笑い言った。


「ええ、もちろんです。それらの商品は私の専売特許なので……」




 了

最後まで読んでくれてありがとうございます!

(ジャンルに困りました。その他にしておきます)

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