第6話 ようこそ新しい世界へ
「それでは、本年度えすえふ研、新入部員入部試験を開始します」
黒髪ロングの眼鏡美人、そんな部長の凛とした声が部室に響く。
妹の顔が引き締まり、耳がピンと上がる。
頑張れ萌萌、僕の妹!
大丈夫だとは思っているけれどちょっと不安だ。
でも、なにかあったら僕が助けてあげればいいし、なんとかはなるだろう。
「隆史君、部室から出て待ってて。一時間ぐらいかな」
「なんでですか!?」
突然、僕と妹の仲を引き裂くようなことを部長が言い出した。
「試験なんだから他人がいるのおかしくない?」
「他人じゃないです! 妹なんです!」
なんたって試験は水物だ。万が一ということもある。
「そんなこと言っても。隆史君、もし身体測定があったとしても立ち会う気?」
「うちの入部試験に身体測定があるんですか!?」
どれだけ厳重なんだ。自衛隊みたいだな。
「いや、そんなのないけど」
「ですよね」
「おにいちゃん、私は大丈夫だから」
黙って聞いていた萌萌が、僕の目を見ながらそう言いだした。
整った顔が僕の目を見て微かにうなずく。
「本当に大丈夫か、萌萌?」
「うん大丈夫。おにいちゃん。自分の居場所は自分で切り開くから」
妹はしっかりとした声で僕に答えてくる。
そうか、そうだよな。彼女はもう立派なSF魂の持ち主なんだった。
「では部長、妹をよろしくお願いします。萌萌は頑張って!」
部室を出た僕は、小一時間ほど校内をぶらつくことにした。
・・・
放課後の学校の中は部活に勤しむ生徒でにぎわっていた。
この高校では、生徒はどこかの部活に所属することを義務付けられていて、三割ぐらいの生徒は運動系の部に所属している。
校庭や体育館には平和に陸上やらサッカーやらバスケやらをしている声が響いている。
そして残りの七割は文化・文芸系なわけだけど、こちらは運動系ほど和やかではない。
なにせその部活の多くは半分でも部室があればまだいい方で、屋上や学食での活動を余儀なくされていたりする。
それは全て学内最大勢力のとある巨大部活のせい。
つまり、萌萌を追いかけていたあの、ファンタジー研だ。
一般にファンタジーというと大きく異世界と現代に分かれるが、異世界もまた転生・転移・現地人、バトル・ざまぁ・スローライフとジャンルは細分化される。もちろん現代ファンタジーも同様だ。
そして奴らファンタジー研はその全てのジャンルを掌握し、さらには異世界恋愛にVRMMOすらも配下に加え、その勢力は全生徒の半数を超える規模に膨れ上がっていた。
「どけ! 腐れ雑魚が」
怒鳴り声が耳に飛び込んできた。ファンタジー研の腕章を付けたチンピラ部員に追われ、BL研の腐女子の子たちが逃げまどっている。
ファンタジー研の権力は生徒会よりも大きく、学内の治外法権と化している。
新しい文科系部活棟をファンタジー研専用として実効支配しているほどだ。
そしてこの巨大部活を強烈なカリスマにより支配している三年生の女子生徒こそが、人呼んで全属性の女王、部長の地水院 風火だ。
僕は見たことないけれど、学内一の美少女としても有名らしい。
うちの部長と犬猿の仲という噂もある。
それにしても奴らのせいで学内の治安は悪化する一方だ。
こうなったら、卒業まで目立たないようにひっそり隠れて過ごすしかない、これまで僕はそう割り切っていた。
でも、萌萌の高校生活はまだ始まったばかりなんだよな。
本当に、このままでいいのだろうか。
・・・
「おにいちゃん、お帰りなさい」
「あれ、部長は?」
「これから採点するって出てった。もうドキドキだよー」
席に座った萌萌は紅潮した顔で楽しそうだ。
机の上に置かれているのは猫の表紙の文庫本。
「どんな試験だったの?」
「筆記はそんなに難しくなかった。あとは部長さんといっぱいお話したんだ」
「そっかー。部長どうだった?」
「うん。とってもいい人だった。SFには厳しいけど、優しくて」
妹はすっかり感化された緑色の目をキラキラさせて語っている。
「うんうん、そうだよね」
「頭がいいし人格者だし、人間としても尊敬できる」
「……まぁね」
「あのね、私の先生もあんな人だったんだ」
彼女は夢見るように遠くを見ている。
「へーそうなんだ」
「うん。厳しいけど優しくて、凄い魔法使いで……だけど魔王軍との戦いで黒龍に……そして私のいた森は……」
気が付くと、妹の目は涙ぐみ俯いてしまった。
僕は立ったままそっと肩に手を置く。
ガラッ!
「採点終わったけど、いま誰かファンタジーの話してなかった?」
「ほら部長も帰ってきたよ。元気出して萌萌。僕も一緒だから」
萌萌は手を伸ばし、机の文庫本を両手で握りしめる。
顔を上げた彼女の口元は強く結ばれていた。
「うん、大丈夫。それじゃ部長さん。お願いします。わー、ドキドキする」
緑の瞳には未来への期待の色が映ってくる。
「いいかな。結果発表するわよ…………じゃーん、萌萌ちゃん、合格です! あなたは今からえすえふ研の正式メンバーです!」
「やった! 合格したよ……おにいちゃん、やったあー!!」
感極まった萌萌の目には、再び涙まで滲んでいる。
僕もなんだかジーンとしてしまう。
「おめでとう! 萌萌、頑張ったな」
「ありがとう、おにいちゃん、ありがとう、部長。今日からここが私の居場所なんだね」
でも本当は、僕は知っていた。彼女は既に立派な一人のSF人なのだ。
心配する必要なんて、何もなかったんだよな。
「では新入部員も入ったし、ここはみんなでスローガンを唱和しましょう!」
「はい、部長!」
「私も!」
僕ら兄妹は目を見つめ合い微笑みを交わし、狭い空きスペースに直立不動で二人で並ぶ。
そして扉に貼られたスローガンの前に立った部長が一言。
「それではえすえふ研、スローガン唱和、さん、はい!」
― SFは自由だ ―
ただしファンタジーを除く
部長、僕、そして妹の萌萌。えすえふ研の部室に、僕たち三人の揃った声が響き渡った。
強大なファンタジー研に挑むえすえふ研をぜひとも★★★★★で応援してください。
よろしくお願いします! ブックマークも忘れずに!




