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第32話 義理の妹がエルフだった

「それじゃ公開するよ、萌萌」

「早く、おにいちゃん。読みたい」


 僕は小説のアップロードを終え、画面に『公開』と書かれたボタンをクリックした。

 AIの判定が入り、タイトルの脇にお題三つともクリアのマークが表示される。


「よし、来たぞ萌萌」

「読むね! ふんふん、なるほど、へー、あーそうなって、大変だ、えっ、そんな……あーやっぱり核爆弾だよね、うん」


 隣で萌萌が涙を浮かべて僕の小説を読んでいる。

 何だかちょっと恥ずかしい。

 でも、自分の作品を読んでもらうのって、こんなにも嬉しくてドキドキするんだな。


「よかった! 感動した! 面白かった! ★!」

「萌萌超早い」

「だって、私が一番最初に★を付けたかったんだもん」


 明るく答えた妹は、おもむろに立ち上がった。

 眼鏡のレンズがきらりと光る。


「私、みんなに宣伝してくる!」



 ・・・



 と言っても、★は萌萌の入れてくれた一個のままだ。

 ランキングは底辺をさまよっている。


「駄目なのか……」


 誰もいない部室で、僕は一人つぶやく。

 チームランキングはやはりファンタジー研がダントツのトップで独走中。

 小説ランキングのほうも、トップに聳えるのは例の★FUKA★の小説だ。どうやら龍の話らしい。 


 そりゃそうだよな。


 どんなに面白くても、読んでくれなかったら誰も評価してくれないんだよな。

 そんな簡単なことも僕は判っていなかったのか。


 でもまだ遅くはないかもしれない、せめて宣伝ぐらいしてみるか!


 学内BBSに小説のタイトルを書いて面白かったとコメントをしてみる。

 さあどうだ? スマホの画面を期待して見る。


 五秒後、作者乙というレスが付いた。

 そのまま流れて終わる。

 いやちょっと……どうしたらいいんだよ、こんなの無理ゲーじゃん!


 その時、付けっぱなしの薄緑色のパソコンから聞きなれた声が流れてきた。


「みなさーん!」


 放送部の生中継に映っているのは……大写しになった妹の顔、それも眼鏡を掛けていない、つまり耳の尖った緑の瞳の美少女が画面に映りこんでいた。


「なにこの子かわいいんですけど」

「エルフ乙」

「特撮? CG? AI画像?」


 配信動画の上でコメントが踊り始める。

 萌萌は軽やかな微笑みを見せ、手に持ったスマホの画面をカメラに向けた。


「この小説、すごく面白くて感動したんです。なのでお薦めしたいなーって」


 画面に映し出されているのは小説のタイトル。その名は、


 ― 義理の妹がエルフだった ―


「なにこのステマ、でも読む」

「全くステルスでないステマ乙。可愛いから許す」

「88888888」


 コメントが次々と流れる。


「みなさーん、ぜひ読んでください。そして★をください!」


 目の前のノートパソコンの画面で、耳の突き出た僕の妹がにっこりと首をかしげて微笑む。画面にコメントが乱舞する。


「★★★★★」

「義妹エルフ乙」

「課金させろ課金」


 そして僕の小説のPVが回り始め、ランキングが底を離れ上昇を開始した。



 ・ ・ ・



 部室の引き戸がトントンとノックされた。


「……クスクス、ポスター作ってきたわよ」


 ミス研の三人が紙の束を抱えて入ってきた。

 『義理の妹がエルフだった』というタイトルとQRコード、そして手書きで描かれたかわいらしいエルフのイラストが躍っている。


「僕たちにもポスター貼りを手伝わせてくれ、フフフ」


 横から声を掛けてきたのは卓球部の眼鏡のキザっぽい部長だ。

 こないだは陰険とか言って悪かった。


「僕たちも手伝う!」「私たちも!」


 集まってきたのは同好会のみんなだ。

 そして純文部の三島部長が、前に立って演説を始める。


「静かにせい。話を聞け。今我々がここで立ちあがらなければ、我々は永久にファンタジー研に隷属したままだ。俺は待った、そしていまこの日が来た。今こそ我々は立ち上がり、ファンタジー研を打ち砕くのだ!」

「うぉおー!」


 部室の外にまで溢れる仲間たちの歓声と拍手が、木造の古い部室棟に巻き上がった。



 ・・・



「ただいま」

「おかえり、それにありがとう萌萌。お疲れ様」

「えへへっ」


 僕のその言葉に、妹はその顔いっぱいに喜びを浮かべてはにかむ。


「もう、これでやれることはないな。あとは待つだけか……」

「ねえねえ、だったら、」


 妹が僕の手を取る。


「一緒に創文祭を回ろうよ、おにいちゃん!」

「そうだな。行こうか、萌萌!」


 最終日の午後遅くの校内、まだ多い人混みの中を歩く。

 妹は僕の指先を握ったまま離さない。


「ほら、おにいちゃんが、はぐれちゃわないように」


 えへへと笑う妹の、柔らかくひんやりとした指をそっと握り返す。 

 歴史研の模造紙展示を見てから、どこかのクラスのクレープを食べて、そしてコンピューター部の占いに二人で並ぶ。


「見ておにいちゃん。私たち相性九十七パーセントだって」

「すごいじゃん」

「この三パーセントが気になるな……」


 プリントアウトを見ながら、妹は首をかしげて考え込んでいるが、その口角は嬉しそうに上がっている。

 そんな兄妹で相性が良くてもという気もするけど、悪いよりはもちろんいい。


「あ、見ておにいちゃん!」


 渡り廊下に置かれた大きなモニターの画面を萌萌が指さした。

 放送部のあのコン特番だ。

 ランキングが映し出されて、画面が上へと流れる。

 その最上部に表示された小説のタイトルは、


  1位 義理の妹がエルフだった


「やった、おにいちゃん、やったよ!」

「ありがとう、萌萌!」


 僕たちは抱き合って喜ぶ。ちなみに2位は★FUKA★の小説だった。

 タイトルは『黒龍の降臨』

 しかし、次の画面を見て僕らは二人とも沈黙してしまう。


 ~ チームランキング ~


  1位 ファンタジー研

  2位 エンタメその他

  3位 恋愛脳


 後ろに表示されている★の差はかなり接戦に見える。

 しかし、もうその数に動きはない。

 あらかた生徒は投票を済ませてしまったのか……残念だ。善戦したんだけど、あと少しだったのにな。


「えっ? あれは……」


 突然、隣で萌萌が息を呑む声を上げた。

 窓の外を見ている妹の視線を辿る。夕闇迫る校庭、後夜祭の準備が進んでいる。

 そして、僕も異変に気づいた。


 グラウンドの中央に、大きな蒼白い円を描く光の文様が浮かび上がっていた。

 見た目はファンタジー研の地下で見た魔法陣と同じもの。

 しかし、何倍も大きい……


 その時、今まで聞いたことのない気味の悪い電子音が、校内に鳴り響いてきた。


 ピろろリーン♪、ピろろリーン♪


 心を不安にさせる不協和音が、僕のスマホから出ている。

 いや、違う。

 あたり全ての人のスマホから同じ音が鳴っているのだ。


 周囲のガヤガヤとした喧騒が「なんだこれは」というどよめきに変わる。

 そして僕のスマホの画面にも見慣れぬエリアメールが表示されていた。


  ―― ―― ――

  直ちに避難。直ちに避難。

  直ちに頑丈な建物や地下に避難して下さい。

  こちらはJアラートです。

  国民のみなさまは落ち着いて行動してください。

  ―― ―― ――


いよいよ完結は1/17。

えすえふ研に★で応援をお願いします!!

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