第27話 創文祭二日目
そして創文祭も二日目が始まった。
僕が昨日書いたゾンビSFの短編には★が一個付いていた。誰か知らないけれどありがとう!
でも萌萌の幼馴染が宇宙人だった話には★が二個付いていて、ランキングで僕の上にいる『☆MOE☆』という名前を見てちょっとだけ悔しい。
ところで今日は部室をミス研が使っているので、うちの部は廊下の隅にブースを出してコピー本を頒布することになっている。正直売れる気はしないけど。
ちなみにファンタジー研はといえば、新部活棟を特設ダンジョンにして公開するとのこと。僕も後で偵察に行こうとは思っている。
さてそろそろお題の発表だ。廊下の隅で部長のノートパソコンを三人で見つめる。アナウンサーの声が響く。
「それではあのコン二日目のお題は、こちらに確定しました!」
魔法使い
スローライフ
ダンジョン
「おにいちゃん、こんなの……勝てるわけないよ」
「これって、ファンタジー研が圧倒有利じゃ」
妹の悲鳴のような声に、僕もまた声を震わせてしまう。
「仕方がない、ここは私が出る!」
部長が猛烈なスピードでノートパソコンのキーを叩き始めた。
途切れることなく文字を打ち込みながら画面から目を逸らさずに僕に話しかけてくる。
「ひとまず私に任せて。隆史君はファンタジー研の偵察をお願い」
「わかりました。それじゃ萌萌は部誌の販売よろしく。僕は新部室棟に行ってきます」
・・・
完成以来ファンタジー研が実効占拠していている新部室棟は僕も入るのは初めてだけれども、近寄る者に圧倒的な威圧感を放っていた。
そして特設ダンジョンの入り口には長蛇の列ができていた。
それもそのはず、前評判がすこぶる良いのだ。開場前からファンタジー研の生徒たちが自信満々に宣伝していたのを覚えている。
並んでいても行列がなかなか進まない。
いや、見ているともっと早い行列もあるな。近くの誘導の人に聞いてみよう。
「あっちの列ってなんで早いんですか?」
「向こうはファストパス専用です」
「なにそれ?」
「優先入場券です。あのコンでファンタジー研の小説に★を付けるともらえますよ。あなたもいかがですか」
「えぇ!?」
とはいえ、ここでファンタジー研に★を付けるわけにもいかない。
じりじりと行列に並ぶことしばらく、ようやく僕の順番が来てカードの束を渡された。
窓をふさがれてダンジョン仕立てになった新部室棟を歩き回る。
部員が扮したモンスターと遭遇しバトルが始まると、シャッフルしたカードから五枚を使い、攻撃や防御や魔法を使う戦闘を行なう。
そして最後にボスを倒すと景品をもらえるという、十五分ほどの催しだった。
暗闇に広がる新部室棟のダンジョンは意外とリアリティがあり、カードバトルも戦略性があって面白かった。僕はボスまで行って負けたけど。
「見てきました。えっと……」
廊下の隅にあるうちのブースに戻って部長に様子を説明した。
「なるほどねー。あいつらもいろいろ考えるな」
「ズルいような気もするけど、絶対ダメかというとそうでもない感じなのがまたズルいっていうか……」
いいながらつい溜息をついてしまう。そしてふと周りを見回す。
「ところで妹はどこに?」
「萌萌ちゃんならついさっき小説を書き終わって、これからダンジョンを見にいくと言って出てったけど」
「あーそうですか。今度は僕が売り子をやります」
「よろしく。私はちょっと休む」
どうやら部長はとっくに小説を書きあげてもう公開したようだ。
ランキングの一位には部長のペンネーム『かぐや』が燦然と輝いている。
その内容はといえば、引退していたウィザードと呼ばれるハッカーと少女が、ダンジョンという名のシステムに挑むというサイバーパンクでこれが面白い。
VRゲームのスローライフのシーンもあり、ちゃんとお題三つもクリアしている。やっぱりすごいな、うちの部長。
そして萌萌の短編も公開されていた。ブクマして後でじっくり読むことにするか。
・・・
「えすえふ研の部誌はいかがですかぁ……ふぅ」
声を枯らすけれどまったく手ごたえがない。それでも売上ノートを見ると萌萌が二十冊、部長が十冊売っているんだよな。
そりゃかわいい女の子から買いたいよな、普通……
結局、僕が売ったのは挙動の怪しいOB風な人に一冊だけだった。それも三十分ほど居座られ、最近の日本SF界の動向について熱く語られてしまう。
すっかりご高説にお腹いっぱいになった後に、ようやく聞きなれた声が帰ってきた。
「隆史くん、お疲れ」
「あ、部長。もう休憩はいいんですか?」
「うん、ありがとうね」
長い黒髪の眼鏡美人、部長の言葉に癒される。
やっぱりいいよなうちの部長このバブみ。
「今の人ね、うちのOBなんだけど、話が長いから終わるの待ってたの」
「えー」
部長の顔にイタズラっぽい微笑みが浮かんでいる。まあいいけど。
それじゃどこか行くか。
スマホで放送部の生配信動画のページを開くと、ちょうどファンタジー研のダンジョンから中継しているところだった。
「……はい、この特設ダンジョン、現在創文祭で一番人気となっております。こうやってモンスターに扮した部員の方たちの演技もなかなか迫力があって……」
まあ確かに面白かったけど、ファストパスはなんかズルいような。いやでもプロモーションの一環と言われると……
そんなことを考えていると中継カメラが奥へとズームしていく。
「……お、エルフですね。さすがリアルに出来てますね……」
スマホの画面の中を走っている萌萌の耳は、尖っていて、髪から突き出していた。
「どうやらエルフを捕まえるイベントもあるようですね。それではファンタジー研特設ダンジョンから中継を終わります」
「萌萌ぇえ!」
僕は思わず椅子から立ち上がって大声を上げてしまった。
パイプ椅子が廊下のコンクリの上にガチャンと倒れる。部長が何事かという顔で僕を見る。
スマホからは『追えー』とか『エルフを逃がすなー』という音声も流れてくる。
「部長、ちょっと行ってきます!」
返事も聞かずにブースを飛び出した僕は、混雑した廊下の人混みをかき分けて、戻ったばかりの新部室棟へと全力で向かった。
・・・
『うわっ、混んでる!』
さっきの放送部の中継の効果か、行列は前より長くなっていた。
このままでは中に入るだけで時間がかかりそう。ここはもう仕方がない。
僕はスマホであのコンのランキングページを開くと、ファンタジー研のなるべくつまらなそうな作品をざっと読んで★を付け係員にかざす。
「これでファストパスを!」
「はいはい、こちらに来てください」
待ってろ萌萌、おにいちゃんがすぐ行くからな!




