第15話 合宿の成果は
こんな感じで、僕たちは二日目になんとか原稿を書き上げた。
夕食後は三人で外に出て空を見上げる。
まだ寒い五月の夜、自販機の暖かいお茶を手に、二十世紀の宇宙開発と絶版となったSFの名作について語り合い、宇宙に思いを巡らせる。
研修所の中庭で、月を見ながら部長がつぶやく。
「人類はね、あんなところまで到達していたこともあるのよ……」
「アポロ計画ですよね。でもきっとまた人は月に行きますよ」
僕の答えに部長はなぜか寂しそうにうなずいた。
そして結局、萌萌はまた僕の部屋で眠っていた。
夜が明けて合宿も三日目、最終日の朝食後の食堂。
「みんなできたよー」
僕たちが書いた原稿を、部長がコピー誌にまとめてくれていた。
どうやら昨日の夜も一人で色々やっていたようで、本当に部長には頭が上がらない。
「なんだかワクワクしますね、部長」
「私はドキドキするな、おにいちゃん」
そう、これが僕たちえすえふ研の、このGW合宿の成果だ。
「最初は萌萌ちゃんの小説です!」
「うわー、緊張する」
朝食後の食堂の隅で、僕たちは出来たばかりのコピー誌を読みふける。
萌萌のプロットの続きは、こんな感じになっていた。
――――
ゴブリンの群れから村を守ろうと戦う二人。敵から追い詰められた青年を守るため、エルフの少女は森で禁断の魔法であるファイアーストームを使ってしまう。
炎の渦巻く森の中で青年は、敵のボス・ゴブリンキングをその剣で真っ二つにした。
結局少女は村を救ったものの、掟によって森を追放されてしまう。しかしエルフの長老は少女に餞別として、伝説のマジックアイテム「竜の卵」を手渡したのだった。
そして少女は青年と共に、世界へと旅立つ。
――――
「いいじゃない。このまま書けばきっとSF魂に満ちたいい作品になるわ」
「ほんと萌萌すごいよ」
「そっかなぁ、えへへ」
部長と僕に褒められて、妹の顔がほころんでいる。見えてない耳が上下に動いてそうだ。
そして続いては僕の番。
ちょっと恥ずかしいけど僕の初めての小説だ。プロットはこんな感じ。
―――
高校生男子の主人公のところに、中学の時に転校していった幼馴染の女の子から帰ってくるという手紙が届く。同時に自分の父親の再婚話が持ち上がる。
そしてこの幼馴染がなんと義理の妹になってしまうのだ。
どきどきの同居生活が始まったある日、シャワーを浴びようとした彼は脱衣所で下着姿の妹と鉢合わせしてしまう。
そしてその夜……彼は妹からこの世界がサービス終了が近づいたコンピューターゲームの中であると聞かされる。兄妹は二人でゲーム世界からの逃亡を試みるのだが。
――――
「いいんじゃないかな。ハードSFというよりはセカイ系だけどね」
部長のOKが出てちょっとほっとした。
萌萌が興味深そうな顔で尋ねてくる。
「あのー部長、セカイ系ってなんですか?」
「うん、例えばね萌萌ちゃん。世界が滅びそうになって、大切な女の子を助けるか世界を救うか究極の選択を迫られたとするじゃない?」
部長は両手のひらを上にかざしながら続ける。
「そこでね、女の子を選んだらセカイ系、両方救おうとしたらエンタメ系。で、無駄に壮大な話にしてあやふやにしちゃうのがハードSFって感じかな」
「へー」
「ちなみに、泣きながら世界を助けた後にヒロインを悔やみ続けるのが純文学ね」
「へーへー」
萌萌はよく分からない顔でうなずいた
そして最後は部長。ペンネームは『かぐや』
昨日見た、月を眺める寂しげな姿をふと思い出してしまう。
――――
2055年。ノックスの十戒が面倒になった推理小説家が、作者に苦情を言うためにタイムマシンで過去に向かった。一方それを察知した本格推理派も、妨害のためタイムマシンで過去へと一人の小説家を送り込む。
なんとか目的地に辿り着いた二人の小説家が目にしたのは、既に殺されていたノックスの死体だった。
思いがけない事態に最初は反発しながらも、二人は共同で殺人事件の究明に挑む。そんなおじさんと若い男のブロマンス小説で、タイトルは「お前がノックスになるんだよ」
――――
「本当の歴史が間違っていた話なのかな。だとすると、この二人はどの世界から来たんだ? となると誰か他にも犯人が、うーん……」
考え込んでしまう。タイムパラドックスって難しい。
「でも、こういう小説を読むと考えちゃいますよ。歴史は修正可能なのか、何をしても変わらないのかとか」
「私は歴史は変わって欲しいと思ってるけど。もしトールキンが指輪を書く前に死んでいたら、世界はどうなっていたのか……」
遠くを見るように答える部長の黒髪には、なぜか葉っぱが絡んでいた。
そこに妹が尋ねる。
「ところで部長、ブロマンスってBLとは違うんですか?」
「うーん、もうちょっと精神的なものかな。男と男の絆とかそういう」
「あー、なるほどですねー」
「あなた達、朝からどんな話してるんですか、あ、おはようございます」
食堂の隅で盛り上がっていた僕らに声を掛けてきたのは、ミステリー研の二人だった。確か、新本格と社会派だったかな。
「おはようございます。今日は二人なんですね」
「ところでうちの部長見ませんでした?」
「明智さんですか? いや。昨日の夜から見てないけど」
ミス研の明智部長というのは本格推理マニアの人だったはず。
しかしこの人たち、クスクス言わなくてもなくて喋れるんだな。
「行方不明なんですよ。部屋をノックしても出ないし」
「だったら、もう一度部屋に見に行きましょう」
僕の提案で、ひとまずみんなでミス研部長の部屋に向かうことになった。




