第9話:宝玉の意思と、招かれざる波紋
村を挙げての熱狂的な胴上げからようやく解放されたユウマは、地面にへたり込み、ぜいぜいと肩で息をしていた。三半規管が揺さぶられ、現実感がまるでない。しかし、周囲を取り囲む村人たちの狂喜に満ちた瞳が、これが悪夢のような現実であることを彼に突きつけていた。
「英雄だ!」「我らの村の救世主!」「召喚士様、万歳!」
そんな喧騒の中、興奮で顔を真っ赤にした村長が、よろよろとユウマに駆け寄ってきた。その目は、ユウマが未だに握りしめている『精霊の宝玉』に釘付けになっている。
「おお、召喚士様! 改めて、この度の御恩、何と感謝すればよいか…!」
村長は感極まった様子で、ユウマの手にある宝玉を指さした。
「しかし、信じられませぬな。あれほど凶暴だった魔物の核が、これほど美しく、ただの綺麗な石ころに浄化されるとは! まさに奇跡ですな!」
村長は悪気なく、純粋な驚嘆からそう言った。
その言葉が響き終わらないうちに、ユウマの隣に立つリリスが、面白そうに唇の端を吊り上げて、小さく、しかしはっきりと呟いた。
「石ころ? 当然さ」
リリスがそう言った、瞬間だった。
ユウマの手の中にあった宝玉が、脈動するようにカッと眩い光を放った。
「うわっ!?」
ユウマが驚いて手を開くと、宝玉は彼の意思とは無関係に宙に浮き上がり、明確な意志を持ったかのように、村長に向けて指向性の衝撃波を放ったのだ。
ドンッ!!
という鈍い音と共に、村長は「ぐえっ!」という短い悲鳴を上げ、まるで巨大な手に突き飛ばされたかのように、数メートル後方まで吹き飛ばされ、地面を転がった。
「「「む、村長ぉぉぉっ!!」」」
村人たちの歓声が悪夢のような悲鳴に変わる。
あたりは一瞬にして静まり返り、誰もが何が起こったのか理解できずに立ち尽くしていた。
当のユウマは、目の前で起こった惨状に血の気が引いていく。
(お、俺のせいで…村長が……!)
パニックに陥るユウマをよそに、仲間たちの解釈は、いつも通りあらぬ方向へと突き進んでいた。
「フン! 我が主の戦利品を『石ころ』呼ばわりしたことへの天罰よ! 偉大なるユウマ様のお力を前に、不敬は許されんということだ!」
ガガルは、むしろ誇らしげに胸を張る。
「ああ…聖なる宝玉が、自らの価値を解さぬ者を退けたのですね。賢者様の手を煩わせるまでもないと、自らの意志を示されるとは…!」
アリアは、神々しい奇跡を目の当たりにしたかのように、うっとりと宝玉を見つめている。
「フフフ…面白いじゃない。ただのエネルギーの塊かと思ったら、ちゃんとプライドもあるのね。気に入ったわ」
リリスは、まるで新しいオモチャを見つけた子供のように、楽しそうに微笑んでいた。
意識を取り戻した宝玉は、まるで役目を終えたかのようにふわりと下降し、再びユウマの手のひらにちょこんと収まった。その輝きは先ほどよりも穏やかに見えたが、ユウマにとっては最早、核爆弾のスイッチにしか思えない。
吹き飛ばされた村長は、幸いにも腰を打っただけで大きな怪我はなかったようだが、ユウマを見る目は、先ほどまでの尊敬とは明らかに違う、純度100%の「恐怖」に染まっていた。
(終わった……。完全に終わった……)
村の英雄になったかと思えば、次の瞬間には村長を吹き飛ばす暴君へクラスチェンジ。
ユウマは、もはや自分の意志ではどうにもならない事態の悪化に、ただただ絶望するしかなかった。彼の平穏な日々は、また一歩、彼方へと遠ざかっていく。




