第八十三話 七つの世界の真実と、賢者の新たな使命
「その地位は、『王国の守護者』!」
国王陛下の、高らかな宣言。
ユウマが、この国の、事実上の、最高権力者(という名の、生贄)に、祭り上げられてしまった、その瞬間。
謁見の間にいた、全ての者が、ユウマに向かって、ひれ伏した。
(王国の…守護者…?)
ユウマは、もはや、自分が、誰なのかも、分からないまま、その、熱狂と、畏怖の、渦の中に、ただ、立ち尽くしていた。
「…守護者殿」
静かな、しかし、有無を言わせぬ、威厳を持った声で、国王が、ユウマに、語りかけた。
「…ついて、まいれ。おぬしに、見せておかなければ、ならぬものが、ある」
王は、ユウマとその仲間たちだけを連れ、謁見の間を、後にした。
彼が、一行を、導いたのは、王城の、最も、高く、そして、古い、塔の、最上階。
『星霜の間』と呼ばれる、王族の中でも、限られた者しか、入ることのできない、秘密の、占星室だった。
その部屋の、中央には、巨大な、天球儀が、置かれていた。
しかし、それは、ただの、星図ではない。七つの、色とりどりの、光り輝く、世界が、複雑な、軌道を描きながら、ゆっくりと、回っていた。
「これが、我らが、世界の、真の姿じゃ」
王は、その、天球儀を、指し示した。
「この世界は、決して、一つではない。性質の、全く、異なる、七つの世界が、重なり合い、成り立っておる」
王は、七つの世界を、一つ、一つ、指さし、説明を始めた。
「ウィルナス王が治める、ここ、人間界。そして、おぬしたちが、今しがた、戻ってきた、ファーンの精霊界」
王の言葉に、アイが、少し、得意げな顔をする。
「そして、バハムートが治める、龍神界。フェンリルが治める、幻獣界。エンマが治める、冥界…」
ユウマは、知らない王の名と、世界の名前が、次々と出てくるのを、ただ、呆然と聞いていた。
「神王が治める、神界…」
その言葉に、皆の視線が、一瞬、アリアへと集まる。アリアは、静かに、目を伏せた。
「そして…」と、王は、最後の一つを、指さした。
「…魔王が、不在のまま、後継者争いが続く、混沌の、魔界」
今度は、リリスと、ガガルに、視線が、集まった。リリスは、面白そうに、笑っているだけだった。
「なぜ、俺に、こんな話を…?」
ユウマが、かろうじて、声を絞り出すと、王は、静かに、答えた。
「これまで、七つの世界は、互いに、ほとんど、干渉することなく、均衡を、保ってきた。…しかし、おぬしは、違う」
王の、鋭い視線が、ユウマの仲間たち――獣人のガガル、天使のアリア、魔界に連なるリリス、精霊界のアイ――を、見渡した。
「おぬしは、その、存在だけで、世界の、垣根を、越え、様々な理を、その身に、束ねておる。…おぬしこそが、この、七つの世界の、均衡を、保つ、唯一の、楔となりうる、存在なのじゃ」
「それこそが、余が、おぬしを、『王国の守護者』ではなく、『七世界の守護者』と、呼びたい、本当の、理由よ」
その、あまりにも、壮大すぎる、使命の、開示。
ユウマは、もはや、眩暈がして、倒れそうだった。
その時、それまで、黙って、話を聞いていた、リリスが、くすり、と笑った。
「あら、王様。その、おとぎ話、少しだけ、情報が、古いわよ?」
「…なに?」
リリスは、楽しそうに、天球儀に、触れた。
「確かに、七つの世界は、存在するわ。でもね、その、バランスは、もう、とっくの昔に、崩れ始めてる」
彼女は、混沌の魔界を、指さした。
「例えば、ここ。魔王が、いなくなってから、もう、百年以上、経つかしら。力の、均衡が、崩れた、魔界からは、あぶれた、魔物たちが、他の世界へと、溢れ出し始めてる」
彼女は、次に、きらびやかな、神界を、指さした。
「あそこは、あそこで、退屈した、神様たちが、時々、人間界に、『奇跡』っていう名の、厄介事を、押し付けに、来るしね」
リリスの、その、まるで、ご近所の噂話でもするかのような、口調。
しかし、その内容は、国王や、宰相ですら、知り得ない、世界の、裏の、真実だった。
ユウマは、目の前で、繰り広げられる、神話レベルの、会話を、聞きながら。
自分が、これから、背負わされるであろう、使命の、あまりの、重さと、大きさに、ただただ、遠い目を、するしかなかった。
彼は、この日、世界の、秘密を、知った。
そして、その、秘密を、知ってしまったが故に、もはや、絶対に、逃げられない、ということも、悟ったのだった。




