第7話:英雄の凱旋と新たな重荷
静寂を破ったのは、リリスの吐息だった。
「……信じられない」
彼女はゆっくりとユウマに近づくと、その足元で淡い光を放つ『精霊の宝玉』を拾い上げた。宝石は、彼女の手の中で温かく脈動しているように見えた。
「『精霊の宝玉』…。こんなもの、辺境の鉱山に眠っているような代物じゃないわ。ユウマ、貴方、本当に面白いものを引き当てる天才ね」
リリスはうっとりとした表情で、宝玉ではなく、ユウマの顔を見つめていた。
彼女は宝玉をユウマの手にそっと握らせる。
「はい、貴方の戦利品よ。正直、私の想像を遥かに超えていたわ。完敗よ」
「は、はあ……」
ユウマは、手のひらに収まった温かい宝石を見つめることしかできない。
我に返ったガガルとアリアが、興奮した様子で駆け寄ってきた。
「ユウマ様! お見事であります! 敵の力を利用して内側から破壊するとは、まさに魔王の戦術!」
「賢者様、ご無事でしたか! そのお身体を犠牲にする気高いお姿、このアリア、生涯忘れません!」
(俺はただ、捕まって、死ぬかと思っただけなんだけど……)
三者三様の賞賛は、もはやユウマの精神を削るヤスリでしかなかった。
一行が鉱山から出ると、入り口には村長をはじめ、村人全員が固唾を飲んで待ち構えていた。
彼らは、ユウマ一行が全員無傷で帰還したのを見て、目を見開く。
村長が、震える声で尋ねた。
「お、おお…! 召喚士様! あの魔物は…!」
ユウマは、心身ともに疲れ果てていた。何かを説明する気力も、取り繕う元気もない。
彼はただ、村長の問いに答える代わりに、先ほどリリスから渡された、光り輝く『精霊の宝玉』を、ぼんやりと掲げて見せた。
その瞬間。
村人たちの**「安堵」と「崇拝」**の感情が、最大限に膨れ上がった。
ユウマの、ただ疲れ果てて宝玉を見せるという無意識の行動が、『概念誘導』によって、この村の歴史に刻まれる伝説の光景へと変換されたのだ。
村長は、その宝石が放つ神々しいまでの輝きを見て、涙を流して叫んだ。
「ご覧ください、皆の者! 召喚士様は、あの邪悪なる魔物を討伐されたばかりか、その穢れた核を、これほどまでに美しく浄化なされたのだ!」
「おお…! なんという奇跡…!」
「魔物の心臓が、聖なる宝石に…!」
ユウマが手にしたものが、世界の理に関わる『精霊の宝玉』であることなど、村人たちが知る由もない。
彼らの目には、ユウマの行動すべてが、**「英雄による奇跡の具現化」**として映っていた。
次の瞬間、村は割れんばかりの歓声に包まれた。
「英雄だ!」「我らの村の救世主だ!」「召喚士様、万歳!」
屈強な鉱夫たちがユウマの身体を軽々と担ぎ上げ、歓喜の胴上げが始まった。
「ちょ、やめ…!降ろして!」
ユウマの悲鳴は、熱狂的な歓声の波にかき消される。
天高く舞いながら、ユウマは固く『精霊の宝玉』を握りしめていた。
(飯を食いに来ただけなのに…! なんで俺、村の英雄になってるんだよ…!)
聖女と魔王軍幹部と元魔神の女、そして伝説の召喚士という勘違い。
手には、全く正体不明のオーパーツ。
彼の評判は、もはや彼自身の手には負えないレベルで、世界へと広まり始めていた。
ユウマの、平穏な生活を取り戻すための戦い(という名の大いなる勘違い)は、まだ始まったばかりである。




