第六十九話 定着の儀式と、迷惑な守護者たち
『火の道』を使った一行は、あっという間に、精霊王ファーンが待つ、マザーツリーの根本へと帰還した。
「おお! 見事じゃ。四つの祝福、全てを、その身に宿しておるな」
虹色に輝くチビすけを見た精霊王は、満足げに頷き、一行を、生命の泉の中心へと導いた。
「ユウマ殿。その子を、泉の中心にある、その台座の上へ」
ユウマが、チビすけの入った宝玉を、そっと台座の上に置くと、精霊王は、儀式の開始を宣言した。
「この地に、生まれし、新たな命よ! 今こそ、その根を、大地に下ろし、森の、次なる心臓となるべし!」
泉の水が輝き、マザーツリーが祝福の歌を奏でる。
儀式がクライマックスを迎えた、その瞬間。
突風が吹き、水しぶきが上がり、地面が盛り上がり、炎が渦を巻いた。
風、水、土、火。四柱の大精霊が、儀式を見届けるため、一堂に会していた。
四色の光が、台座の上の宝玉へと注ぎ込まれ、やがて光が収まった時。
宝玉は、その輝きを失い、代わりに、台座の上には、四枚の葉を持つ、光り輝く苗木が、一本、しっかりと根を下ろしていた。
新たな『泉の精霊』が、誕生した瞬間だった。
感動的な光景。しかし、その雰囲気を、即座にぶち壊す者たちがいた。
「よし、儀式は終わりね!」
サラマンダーが、腕を組んで、ユウマの前に立った。
「約束通り、ライバルのあんたを、監視するため、あたしは、あんたについてくわ!」
「お待ちくださいな」
ウンディーネが、優雅に、サラマンダーを制する。
「父あるところに、母がいるのは、当然の理。この子の健やかな成長のため、私が、お側を離れるわけには、まいりませんわ」
「…マスターの、行くところ…。それが、私の、創作の、源泉…」
ノームも、フードの奥から、ぼそりと、しかし、断固として、付き従う意思を示す。
「べ、別にあんたたちと、一緒に行きたいわけじゃないんだからね!」
シルフィードが、顔を真っ赤にしながら叫んだ。
「このチビが、あたしの風を、ちゃんと使えるか、監視する、義務が、あたしにはあるのよ!」
四人の精霊全員が、それぞれ、自分勝手な理由を掲げ、ユウマについていくと、言い出したのだ。
「(嘘だろ…!)」
ユウマの顔から、血の気が引いた。ただでさえ、カオスなパーティが、総勢九名の、神話級の大所帯になろうとしていた。
その、絶望的な状況を救ったのは、意外にも、精霊王ファーンだった。
「まてまてまて、おぬしら!」
じいちゃんは、やれやれ、と首を振った。
「おぬしら四人が、一斉に、持ち場を離れてみよ。風は凪ぎ、水は淀み、大地は枯れ、火は消えるぞい。世界のバランスが、崩れてしまうわ」
「「「うっ…」」」
四人は、さすがに、その言葉に、反論できない。
「じゃが」と、ファーンは、新しく生まれた、精霊の苗木を指さした。
「この子は、おぬしら全員の祝福を受け、その魂が、繋がっておる。いわば、おぬしらの、アンテナのようなものじゃ」
王は、にやりと笑った。
「普段は、自分の領域を守っておれ。じゃが、この子、あるいは、その親たるユウマ殿が、本気で、助けを必要とした時。この子を介して、おぬしたちの力を、この地に、呼び出すことができる。…そういう『契約』を結ぶというのは、どうじゃな?」
それは、完璧な、妥協案だった。
「なるほど! つまり、ユウマ様のピンチに、いつでも駆けつけられる、と!」
「まあ、それならば…」
「…分かった」
「し、仕方ないわね! あたしが、助けてやらないと、あんた、すぐ、死んじゃいそうだし!」
四人は、不満を残しながらも、その契約に、合意した。
「ふぉっふぉっふぉ」と、ファーンは、ユウマを見て、悪戯っぽく笑った。
「…まあ、あいつらのことじゃ。呼ばれずとも、退屈したら、ちょいちょい、勝手に、顔を出すじゃろうがな」
「(それ、一番、厄介なやつじゃないか…!)」
ユウマは、目の前で、光の契約を交わす、四人の、美しくも、迷惑な、守護者たちを、見つめていた。
常時接続の仲間は、増えなかった。
その代わりに、彼は、いつでも、どこでも、呼び出せる(そして、勝手にやってくる)、四人の、神様レベルの、ストーカーを、手に入れてしまった。
彼の、平穏への道は、また一歩、遠のいたのだった。




