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女神と魔神のギフトより勘違い特性が最強のスキルだった件~神魔覆滅させるもの~  作者: まん丸


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第三十八話 賢者の尋問と、慈悲という名の拷問

夜が明け、朝の光が星見の塔に差し込む頃には、伝説の暗殺者集団『黒蠍団』は、完全に無力化されていた。

団員たちは、アリアの聖なる縄で一纏めに縛られ、塔の一階で気絶している。

そして、団長だけが、ユウマたちのいる最上階の広間に引きずり出され、椅子に固く縛り付けられていた。


「さて、と」

リリスが、楽しそうに団長の目の前にしゃがみ込む。

「夜は楽しませてもらったわ。お礼に、少しだけ『お話』しましょうか。…貴方たちを雇った、物好きな貴族の名前、教えてくれるかしら?」


団長は、口の端から血を吐き捨てると、不敵に笑った。

「…殺せ。我ら黒蠍団に、口を割る者はいない」

彼はプロだった。あらゆる拷問に耐える訓練を受けている。その覚悟が、彼の瞳に宿っていた。


「威勢がいいな、虫ケラが!」

ガガルが、団長の頭を掴み、ギリギリと締め上げる。

「我が主君を狙った罪、その頭蓋を砕いて償わせてやろうか!」


「おやめなさい、ガガルさん」

アリアが、聖母のような、しかし有無を言わせぬ声で制した。

「そのような蛮行は、賢者様がお望みになりません。…罪深き人よ。今、ここで全てを告白し、悔い改めるならば、女神様は貴方に赦しへの道を示されるでしょう」


脅迫と、説法。

しかし、団長は、そのどちらにも屈しなかった。彼は、ただ、黙って正面を見据えている。


その様子を、ユウマは部屋の隅で、ガタガタと震えながら見ていた。

(尋問って…! テレビでしか見たことないよ…!)

暴力的な雰囲気と、緊迫した空気に、完全に当てられている。

彼は、拷問まがいの尋問が見たいわけではない。ただ、この恐ろしい状況を、一刻も早く終わらせてほしかった。


(そうだ…この人も、きっと怖いんだ。俺と同じで…)


ユウマの中に、ごく自然な、人間としての共感が湧き上がった。

彼は、おそるおそる、椅子に縛られた団長へと近づいた。


「あ、あの…」

「ユウマ様!?」

仲間たちが、驚いてユウマを見る。


ユウマは、仲間たちに手で「下がって」と合図をすると、ロデリックがいつの間にか用意していた、水の入ったグラスを手に取った。そして、団長の乾いた唇に、そっとグラスを近づけた。


「…の、飲んでください」


団長は、驚きに目を見開いた。毒か?と思ったが、ユウマの瞳には、何の敵意も、悪意もなかった。ただ、怯えているだけだった。

彼は、こくこくと、渇いた喉を水で潤した。


そして、ユウマは、心の底から、思ったことを、そのまま口にした。

それは、彼自身の、偽らざる本心だった。


「…怖いですよね」


「……?」

団長が、怪訝な顔でユウマを見る。


ユウマは、団長の瞳を見つめ、続けた。その声は、震えていた。

「僕も、ずっと怖いんです。ここに来てから、ずっと…。何が何だか分からなくて、殺されるかと思って…。だから、貴方の気持ち、少しだけ分かる気がして…」


それは、ただの一般人、佐藤ユウマの、魂からの共感の言葉だった。


しかし。

昨夜の悪夢で、すでに精神の均衡を崩していた暗殺者の脳に、その言葉は、究極の『拷問』として突き刺さった。


【ユウマの『共感(僕も怖い)』という概念が、暗殺者の『恐怖(神への畏怖)』によって、『超次元的恐怖の共有』の概念へと反転・昇華される】


団長の思考が、恐怖でショートする。

(…怖い…だと…?)

(この、魔神や聖職者を従え、執事の姿をした鬼神を侍らせる、人知を超えた存在が…『怖い』と言っている…?)

(違う! これは、共感じゃない! 警告だ! これから俺が味わう恐怖は、この神のような存在ですら『怖い』と感じるほどの、想像を絶する、魂の拷問なのだと、そう教えているんだ!)


ユウマの優しさは、彼の脳内で、この世のどんな拷問よりも残酷な、精神攻撃へと変換された。

水を与え、穏やかな言葉をかける。それは、これから始まる、地獄のフルコース前の、アミューズに過ぎないのだと。


「……あ」


団長の、プロとして張り詰めていた精神の糸が、ぷつりと、音を立てて切れた。


「ああ…あ、あああああああああああああっ!!」


突然、団長は、狂ったように叫び始めた。その目からは、涙と鼻水が滝のように流れ落ちている。

「わ、分かった! 分かりました! 話します! 全て話しますから!」

彼は、もはや、ユウ-"マの顔を見ることさえできず、ただガタガタと震えていた。


「どうか! 貴方様が『怖い』と感じるものを、私に見せないでください! お願いします!」


その、あまりの豹変ぶりに、ユウマも、仲間たちも、呆然としていた。


その後、団長は、聞かれてもいないことまで、全てを洗いざらい白状した。

依頼主が、宰相の政策に反対する、ベルフェゴール侯爵であること。

報酬の額。仲間の数。アジトの場所。果ては、自分の初恋の相手の名前まで。


全てを吐き出し終えた団長は、完全に魂が抜けたように、ぐったりと意識を失った。


静まり返る部屋の中。

最初に口を開いたのは、リリスだった。

「……へえ」

彼女は、心底、感心したような、そして少しだけ呆れたような顔で、ユウマを見た。


「暴力でも、祈りでもなく、『共感』で相手の心をへし折るなんて。あんた、悪魔よりよっぽど悪魔的なことするのね」


ユウマは、自分が、またしても、とんでもない勘違いをされていることだけを、辛うじて理解した。

彼は、ただ、優しくしたかっただけなのに。

その優しさが、伝説の暗殺者の心を、完全に破壊してしまったのだった。

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