第三十四話:真実の告白と、魔神の哄笑
「あんた、本当は…一体、何なの?」
リリスの、真実を求める瞳が、ユウマを射抜く。
ガガルとアリアも、ただならぬ雰囲気を感じ取り、息を呑んで成り行きを見守っていた。
ごまかしは、もうきかない。
ユウマの心の中で、張り詰めていた糸が、ぷつりと切れた。
もう、いい。
もう、疲れた。
この、唯一、勘違いではなさそうな相手にだけは、全てを話してしまおう。
「……分かった。話すよ」
ユウマは、か細い声で言った。彼は、椅子に崩れるように座ると、頭を抱え、自分の全てを、吐き出し始めた。
「俺は、ユウマなんて大層な名前じゃない。…佐藤 優馬だ」
「サトウ…ユウマ…?」
リリスが、聞き慣れない響きの言葉を繰り返す。
「俺は、こんな世界の人間じゃない! 『日本』っていう、全然違う世界から来たんだ!」
「ニホン…?」
「そこでは、魔法なんてなくて、剣もなくて…俺は、ただの、コンビニの店員だったんだ!」
「こんびにの、てんいん…?」
ユウマは、半ば泣きながら、支離滅裂に、しかし必死に、真実を語った。
自分が、いかに平凡で、いかに無力で、いかにこの状況に怯えているか。なぜここにいるのかも、この力が何なのかも、全く分からないのだと。
それは、彼の魂からの、悲痛なまでの叫びだった。
話し終えたユウマは、ぜいぜいと肩で息をしながら、リリスの反応を待った。
これで、軽蔑されるか、馬鹿にされるか、あるいは気味悪がられて、ようやく解放されるかもしれない。
長い、長い沈黙が、部屋を支配した。
やがて、リリスの肩が、くつくつと、小刻みに震え始めた。
「…………ぷっ」
最初は、堪えるような笑い声だった。だが、それはすぐに堰を切ったように、激しい哄笑へと変わった。
「くく…っ、あ、アハハ! アハハハハハハハハハ!! 最高! 最高よ、あんた!!」
リリスは、腹を抱え、涙を流しながら大笑いしている。その姿は、あまりにも楽しそうで、狂気的ですらあった。
「リ、リリス殿!? いったい何を!?」
「ユウマ様を、お笑いになるのですか!」
ガガルとアリアが、困惑と怒りの声を上げる。
「違う、違うわよ!」
リリスは、笑いすぎて滲んだ涙を指で拭うと、ユウマを指さした。
「異世界? コンビニ店員? そう…そうだったの! なぁんだ! 私、とんだ勘違いをしてたわ!」
「わ、分かってくれたのか!?」
ユウマは、ようやく現れた理解者に、一筋の光明を見た。
「そうなんだよ! 俺は、本当にただの…!」
「ええ、分かったわ。よーく分かった」
リリスの笑みは、同情や理解ではなく、純度百パーセントの、極上の愉悦に満ちていた。
「あんたが、とんでもない『本物』だってことがね」
「……は?」
「考えてもみなさいよ」
リリスは、心底楽しそうにユウマを見つめる。
「この世界の王も、宰相も、司教も、大魔術師も、誰もがあんたを『本物』の賢者だと勘違いしてる。でも、本当のあんたは、空っぽの、ただの人間。…なのに、世界の方が、あんたという『空っぽの器』に合わせて、勝手に意味を、奇跡を、物語を、作り変えられてるのよ!」
彼女の瞳が、悪戯っぽく輝く。
「神様が奇跡を起こすより、よっぽどタチが悪いわよ、それ。あんたは、存在してるだけで、世界の法則をバグらせる、歩く概念災害みたいなものなのよ!」
リリスは、ユウマの肩を、ポンと軽く叩いた。
「いやー、最高のおもちゃだわ、あんた。今まで以上に、ね。これから、あんたという『無』が、この世界をどこまで引っ掻き回して、壊していくのか、特等席で見物させてもらうわ」
彼女は、絶望に固まるユウマに、悪魔のようにウィンクして見せた。
「だから、これからも頑張って『ただの無力なコンビニ店員』でいなさいよね、大賢者様」
ユウマの最後の希望は、最悪の形で打ち砕かれた。
彼は、唯一の理解者だと思った相手に、自分の存在そのものが、最高のエンターテイメントであると、高らかに宣言されてしまったのだ。
もう、彼に逃げ場はない。
この魔神の女は、彼が平穏を取り戻すことを、決して許さないだろう。
ただ、その混沌を楽しむために。




