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女神と魔神のギフトより勘違い特性が最強のスキルだった件~神魔覆滅させるもの~  作者: まん丸


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第二十九話 賢者の朝食と最初の仕事

その夜、ユウマは眠れなかった。

『星見の塔』の最上階に用意された、雲のように柔らかいベッドに横たわっても、眼下から響く民衆の歓声と、己の未来への絶望が、彼に一切の安息を許さなかった。


夜が明け、朝日が壮麗な部屋を照らし出す頃、ユウマは疲れ果てた顔でベッドから起き上がった。

(夢じゃ…なかった…)


その瞬間、部屋の扉が控えめにノックされた。ユウマが返事をする間もなく、扉は静かに開かれ、完璧な礼服に身を包んだ、銀髪の老執事が一人、入室してきた。その後ろには、数人のメイドたちが控えている。


「おはようございます、大賢者ユウマ様」

老執事は、一切の感情を顔に出さず、完璧な角度でお辞儀をした。

「本日より、ユウマ様と皆様のお世話をさせていただきます、執事長のロデリックと申します。以後、お見知りおきを」


彼の動きには、一切の無駄も、驚きも、恐怖もない。たとえ隣の部屋でガガルが戦斧を振り回していても、眉一つ動かさないであろう、鋼のようなプロフェッショナルだった。


「…あ、どうも…」

ユウマが呆然と挨拶を返すと、ロデリックはテキパキとメイドたちに指示を出し、着替えの準備から洗面、そして朝食のセッティングまでを、瞬く間に完了させてしまった。


塔の一階にある、円形の美しい広間。そこに用意されたテーブルには、昨夜とはまた違う、しかし同様に豪華な朝食が並べられていた。


「ふむ、昨夜の者たちより動きが良いな」

ガガルは、腕を組んで満足げに頷いている。

「ええ。王家直属の方々なのでしょう。賢者様のお世話にふさわしい、見事な働きですわ」

アリアは、その完璧な仕事ぶりに感心している。

リリスだけは、つまらなそうにロデリックを眺めていたが、彼の鉄壁のポーカーフェイスには、さすがの彼女もちょっかいを出しそびれていた。


ユウマは、ようやく訪れた、嵐の後の(偽りの)平穏の中で、温かいスープに口をつけた。久しぶりに感じる、まともな食事の味。その瞬間だけは、彼は自分が置かれた絶望的な状況を、忘れられそうだった。


しかし、現実は、彼に一瞬の休息すら与えてはくれない。


食事が中盤に差し掛かった頃、執事長のロデリックが、巨大な銀の盆を手に、ユウマの隣にすっと立った。

だが、盆の上に乗っていたのは、料理ではなかった。

そこに山と積まれていたのは、夥しい数の手紙と、羊皮紙の巻物だった。


「大賢者様。本日未明より、王城の門に届けられた、最初の一便にございます」

ロデリックは、淡々と説明を始めた。


「まず、こちらが、王都の民からの請願書。病の治癒、商売繁盛の祈願、子供の夜泣きの相談まで、様々です」

「次に、こちらが、有力貴族の方々からの、ご挨拶を兼ねた謁見願いの書状」

「こちらは、魔術師ギルド、商人ギルド、傭兵ギルドから、大賢者様への公式な挨拶と、顧問就任のお願い」

「そして、最後にこちらが…」


ロデリックが、ひときわ分厚い巻物の束を指し示した。

「宰相閣下より。昨日、大賢者様がお示しになられた『温かいスープとパンの政策』の草案です。緊急の最重要国策として、大賢者様の『御承認』の署名を、お待ちであると」


請願。謁見。顧問就...任。国策の承認。

ユウマの脳は、一つ一つの単語を理解することを拒否した。スプーンが、カチャンと音を立てて皿の上に落ちる。


(無理無理無理無理! なんで俺が、国の政策を承認しなきゃいけないんだよ!)


ユウマが、目の前の現実から逃避するように、顔を青ざめさせて固まっていると、その沈黙を、執事長ロデリックは、全く違う意味で受け取っていた。

(これほどの、山積する難題を前にして、一切動じられる様子がない…。なんと、落ち着き払っておられるのだ。これが、国を導く器…!)


ユウマの沈黙は、彼の威厳と神秘性を、さらに高める結果にしかならない。


やがて、その沈黙を破ったのは、ユウマの頼れる(そして、最も話の通じない)仲間たちだった。


「ユウマ様! このような雑務、我々にお任せを!」

ガガルは、国の政策草案の巻物をひったくるように手に取った。

「フン! 字が小さくて読めんな! だが、要は気に食わん貴族を潰せばよいのであろう!」


「まあ、ガガルさん、お待ちください」

アリアは、民衆からの請願書の山を、優しく手元に引き寄せた。

「か弱き民の声こそ、賢者様が最も大切になさるもの。わたくしが、神の愛に基づき、一つ一つ丁寧にお聞き届けいたしますわ」


「あら、面白そうなのはこっちね」

リリスは、貴族からの手紙の束から、最も封蝋の美しいものを抜き取ると、その香りを嗅いだ。

「ふふふ、欲望と下心の匂いがする。こういう手紙の裏を読むのは、得意なのよ」


三人は、ユウマの返事も待たず、当たり前のように、彼の「最初の仕事」を、勝手に分担し、処理し始めた。


ユウマは、目の前で繰り広げられる光景を、ただ呆然と見つめていた。

一人は、武力で国策を解決しようとし、

一人は、祈りで民衆を救おうとし、

一人は、謀略で貴族社会を引っ掻き回そうとしている。


そして、その全ての責任者は、自分。


ユウマは、食べかけのスープが、すっかり冷たくなっていることに気づいた。

彼の、王国大賢者としての、混沌に満ちた最初の一日が、今、始まった。

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