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女神と魔神のギフトより勘違い特性が最強のスキルだった件~神魔覆滅させるもの~  作者: まん丸


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第25話:賢者の沈黙と宰相の決断

「『温かいスープとパンの政策』! 早速、明朝より断固として実行に移す!」


宰相セイファート公爵の、熱のこもった宣言が晩餐室に響き渡る。

彼は、目の前の少年が示した(と彼が思い込んでいる)国家再建への道筋に、老練な政治家としての魂を揺さぶられていた。


「して、賢者殿!」

興奮冷めやらぬ公爵は、身を乗り出してユウマに問いかける。

「その政策の実行にあたり、まず手始めに、民への『スープ』の配給網は、既存の教会組織を利用すべきか、あるいは王家の名のもとに、新たな機関を設立すべきか。どちらがより迅速かつ公平に行き渡るとお考えかな?」


(教会…? 新機関…? 配給網…?)

ユウマの頭は、もはや完全にショートしていた。前世の知識を総動員しても、コンビニの地区別配送ルートくらいしか思い浮かばない。


「そ、それは…その…適材適所、というか…」

ユウマが、必死に絞り出した、意味があるようでない、当たり障りのない言葉。


それを聞いたガガルが、待ってましたとばかりに口を挟んだ。

「フン! 我が主君のお考えはこうだ! 反抗する貴族どもは、その首を刎ねて軍の力で全てを支配すればよい! それが最も迅速であろう!」


「まあ、ガガルさん、野蛮ですわ」

アリアが、たしなめるように言う。

「賢者様は、そのような血の気の多いことは望まれません。まずは、罪深き貴族たちにも、女神様への寄進という形で、自らの罪を悔い改める機会を与えるべきですわ」


「甘いわね」

リリスが、ワイングラスを傾けながら冷ややかに笑う。

「脅して、すかして、色仕掛けでも使って、骨の髄までしゃぶり尽くすのが一番効率的よ。連中が喜んで差し出すように仕向けるの。それが大人のやり方じゃないかしら」


武力による制圧。

宗教による改心。

謀略による支配。


三者三様の、あまりにも過激な意見が飛び交う。ユウマは、この危険思想の持ち主たちと一蓮托生であるという事実に、改めて絶望した。


(もうやめてくれ…俺を、この会話から解放してくれ…!)


ユウマは、ただ黙って、目の前の(もはや味のしない)スープを、スプーンでかき混ぜることしかできなかった。


しかし、その沈黙と、従者たちの支離滅裂な会話こそが、セイファート公爵の脳内に、三度目の天啓を閃かせた。


(そうか…! そうだったのか…!)


公爵の目に、ユウマの姿は、もはやただの賢者ではない。まるで、偉大なる王が、己の家臣たちの意見に、静かに耳を傾けているかのように見えた。


(この御方は、答えを我々に直接与えようとはしていない! ガガルアリア、そしてリリス。三つの異なる視点からの意見をあえて戦わせ、その上で、この私に、宰相であるこの私に、最善の策を選び、統合し、実行せよと、無言で試しておられるのだ!)


ユウマの沈黙は、答えの放棄ではない。

為政者への、究極の信頼と、究極の試練。

その深淵のような思考に、セイファート公爵は畏敬の念で打ち震えた。


「…承知いたしました、賢者殿」

公爵は、深く、深く頭を下げた。

「貴公のその沈黙の意味、確かにこのオーギュスト、心に刻みました。お任せいただきたい。必ずや、全ての意見を昇華させ、最善の一手を打ってご覧にいれます」


(え、俺、何も言ってないんだけど!?)


その後の晩餐会は、セイファート公爵の一方的な政策演説会と化した。

公爵は、目を輝かせながら、ユウマの(一言も発していない)「助言」を元に、いかにして貴族を抑え、民を救うかという計画を、熱っぽく語り続けた。

ユウマは、ただ相槌を打つ機械と化し、出される料理を粘土のように味わいながら、その地獄の時間が過ぎるのを待つだけだった。


やがて、長い長い晩餐会が終わり、一行は再び公爵家の馬車に乗せられ、宿へと戻ってきた。

ユウマは、部屋に入るなり、ベッドへと倒れ込む。精神的な疲労は、もはや限界を超えていた。


「お見事でした、ユウマ様! 国の宰相を、完全に手玉に取りましたな!」

「ええ、賢者様のお導きで、きっとこの国は良い方向へ向かいますわ」

「なかなか楽しめたじゃない。あのジジイ、結構いい顔して焦ってたわよ」


仲間たちの賞賛の声が、子守唄のように遠くに聞こえる。

(もう…どうにでもなれ…)

ユウマの意識が、深い闇に沈みかけた、その時。


コンコンコン!

部屋の扉が、慌ただしくノックされた。

入ってきたのは、血相を変えた宿の支配人だった。


「け、賢者様! 大変でございます!」

支配人は、息を切らしながら叫んだ。

「賢者様が、宰相閣下と共に国の未来を憂い、『救済政策』をお示しになったという噂が、すでに王都中を駆け巡っております! 今、この宿屋の前には、賢者様の名を呼ぶ、数千もの民衆が…!」


ユウマは、最後の力を振り絞って、ベッドから這い出し、バルコニーのカーテンをわずかに開いた。


その眼下に広がっていたのは、松明の灯りが無数に揺らめく、人、人、人の海だった。

地鳴りのような歓声が、彼の名を、繰り返し、繰り返し、叫んでいる。


「「「ユーマ様! ユーマ様! 我らが救世主!」」」


彼は、聖者になった。

彼は、賢者になった。

そして今、彼は、民衆の希望を一身に背負う、救世主に祭り上げられてしまった。


ユウマは、静かにカーテンを閉じた。

彼の逃げ場は、もはや、この世界のどこにも残されていなかった。

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