第百九十話 魂の道と微かな光
暗く狭い階段はどこまでも続いていた
湿った土と古い石の匂い
空気はひんやりと冷たくまるで死の世界の入り口
一行は黙って下り続けた
やがて階段は終わり奇妙な空間へと出た
そこは道ではなかった
濃い霧のような灰色の靄が漂う無限とも思える空間
足元もおぼつかないまるで雲の上を歩いているよう
「…ここが魂の道…?」
アイが不安げに呟く
『そうだ』
ユウマの胸元冥王の宝珠が静かに光る
エンマの声が響いた
『かつて死者の魂が冥界へと辿った古の経路の名残だ
時間の流れも空間の繋がりもここでは曖昧になる』
「ユウマ様…!」
ガガルがユウマの腕を掴んだ
ユウマの身体がわずかに透けているように見えた
「まずい! 生者の肉体には過酷すぎる空間だ!」
ユウマ自身も感じていた
身体が霧散していくような奇妙な感覚
意識を保つのが難しい
『案ずるな』とエンマ
『その宝珠チビすけは生命の理そのもの
そしてお前自身も世界の理を歪める存在だ
この程度で消滅はせん
だが長居は無用だ』
エンマは続けた
『真っ直ぐ進め
決して立ち止まるな
決して振り返るな
聞こえてくる声に耳を貸すな』
その言葉通り
靄の中から囁き声が聞こえ始めた
懐かしい声聞き覚えのある声
ユウマの故郷日本の言葉
『ユウマ…』
『どこへ行くの…?』
『置いていかないで…』
過去の魂の残滓かそれともこの空間が見せる幻覚か
ユウマは歯を食いしばり前だけを見た
腕の中のチビすけを強く抱きしめる
(帰るんだ俺は帰るんだ…!)
仲間たちもまたそれぞれの幻聴や幻覚と戦っていた
ガガルは魔王の声を聞き
アリアは天界の呼び声を聞き
アイは故郷の森の歌を聞いていた
リリスだけが眉一つ動かさず黙々と進んでいた
どれくらい歩いただろうか
時間の感覚は完全になくなっていた
灰色の世界に変化はない
ただ疲労だけが蓄積していく
その時だった
ユウマの腕の中チビすけが
きゅるん!
と一声鳴いた
そしてその宝玉の光がこれまでとは違う強い輝きを放ち始めた
虹色の光が一直線に前方の靄を貫いた
その光の先に
微かに何かが見えた
それは出口か?
それとも新たな幻覚か?
『…近づいてきたな』
エンマの声が響く
『魂の道の淀み…現世と冥界の狭間にある古い忘れられた場所だ
しばしの休息にはなるやもしれんが…』
エンマの声はそこで途切れた
まるで何かを言いよどむかのように
ユウマはチビすけが示す光の先をただ見つめていた
今はもう進むしかない
たとえその先に何が待っていようとも
一行は最後の力を振り絞りその微かな光を目指して歩みを進めた




