第百八十七話 ダクト潜行と異変の兆し
狭く暗いダクトの中
一行は身をかがめながら慎重に進んだ
埃っぽく金属の錆びた匂いがする
リリスの灯す小さな闇の炎だけが頼りだ
先頭を行くリリスが時折立ち止まり壁に耳を当てる
「…近いわ」
彼女が囁く
「この先に人の気配魔力の流れも感じる鳳凰の間はすぐそこよ」
一行の緊張が高まる
ダクトはやがて上へと向かう縦穴になった
壁に取り付けられた古い梯子を使い音を立てないよう慎重に登っていく
やがて梯子の終点が見えてきた
そこには天井に取り付けられた小さな換気口らしき格子があった
格子は古く簡単に外れそうだ
リリスが合図しガガルが音もなく格子を外す
その隙間から下の部屋の様子を窺うことができた
そこはやはりユウマが眠る豪華な寝室だった
天蓋付きのベッドユウマはまだ眠っているようだ
しかしその周りには五人のローブを着た魔術師たちが立っていた
彼らは様々な器具や水晶を使いユウマの身体や精神状態を計測分析している様子だ
壁際には監視用のオートマタも数体待機している
「…やっぱり監視されてる…」
アイが小声で呟く
「どうやって助け出すの?」
「まずはあの魔術師どもを無力化しないとね」
リリスが冷徹な目で状況を分析する
「アリアあんたの聖なる力で眠らせることはできる?」
「やってみますわ…しかし結界が張られている可能性も…」
アリアが集中し聖なる眠りの波動を送ろうとした瞬間
バチッ!
部屋全体を覆う見えない結界に阻まれ波動が霧散した
「チッやっぱりね」
リリスが舌打ちする
ガガルが拳を握りしめる
「ならば俺が奇襲をかけ奴らを!」
「待て」
リリスが再び制止した
「下手に動けばユウマに危険が及ぶわそれに」
彼女は眉をひそめた
「…ユウマの様子がおかしい」
言われてみればユウマの寝顔は安らかではなかった
眉間に皺が寄り苦しげにうなされている
そして彼の腕の中チビすけの宝玉が
これまで見たこともないほど激しく明滅を繰り返していた
虹色の光がまるで悲鳴を上げるように乱れている
「主サマ…!?」
アイが息を呑む
その時だった
ユウマの身体から突如として凄まじいプレッシャーが放たれた!
それは気絶した時に見せたあの空間を歪める圧力
しかし今回はもっと不安定で荒々しい
まるで制御を失ったエネルギーの奔流
バリバリバリッ!
部屋全体を覆っていた監視用の結界がその圧力に耐えきれずガラスのように砕け散った!
魔術師たちが悲鳴を上げ吹き飛ばされる
オートマタたちもショートしたように火花を散らし動きを止める
「な なにごとだ!?」
「『器』が暴走を!?」
部屋は大混乱に陥った
ユウマの身体はベッドの上で激しく痙攣し始めた
チビすけの光は今にも消え入りそうだ
「ユウマ様!」
「主サマ!」
仲間たちの絶叫がダクトの中に響く
リリスは即座に判断した
「今しかないわよ! 行くわ!」
リリスを先頭に一行は換気口から部屋へと飛び降りた
ユウマの暴走は何が原因か分からない
しかしこの混乱こそが彼を救出する唯一のチャンスだった
崩壊する部屋の中へ彼らは決死の覚悟で突入した




