第百八十話 不穏な報せと集結する仲間
『―――『器』、破損。現在、解析中。…ゲームは、一時、中断とする』
ウィルナス王からのあまりにも短く不気味なメッセージ。
リリスはそれを読み終えると、メモを強く握りしめた。その妖艶な顔には珍しく険しい表情が浮かんでいた。
「…どうしたのリリスっち?」
「何かあったのですかリリス様!」
アイとアリアが心配そうにリリスを覗き込む。
リリスはしばし黙考した後、仲間たちに向き直った。
「…どうやらあの子ウィルナス王のところで何か厄介なことに巻き込まれたみたいよ」
彼女はメッセージの内容をかいつまんで説明した。「『破損』『解析中』ですって。あの合理主義者の王が『ゲーム中断』なんて言い出すなんて尋常じゃないわ」
「破損だと!?」
ガガルの顔色が変わった。「ユウマ様のお身体に何かあったというのか!?」
彼の全身から凄まじい怒りのオーラが立ち上る。「あの人間界の王め! 我が主君に指一本でも触れてみろ! ヴァロリアごと灰燼に帰してくれるわ!」
「お待ちくださいガガルさん!」アリアが必死に制止する。「まずは落ち着いて…! 賢者様がご無事かどうか確かめるのが先決ですわ!」
しかし彼女の声も震えていた。ユウマの身を案じる気持ちはガガルと同じだった。
「ちょ…マジで!? 主サマヤバいってこと!? 行かなきゃ!」
アイも弓を握りしめ飛び出す準備を始めていた。
「…そうね」リリスは静かに頷いた。「ヴァロリアへ行くわよ。ウィルナスが何を企んでいるのか。そしてユウマが無事なのか。この目で確かめないとね」
彼女の瞳の奥には冷たい炎が宿っていた。もしユウマの身に何かあれば彼女はウィルナス王であろうと容赦しないだろう。
「かしこまりました」
その様子を静かに見ていたロデリックが一歩前に出た。
「皆様がヴァロリアへ向かわれるのであれば私が手筈を整えましょう。ウィルナス陛下に気づかれぬよう隠密に移動できるルートをご用意いたします」
彼の完璧な手配能力はこういう時にこそ真価を発揮する。
「頼むロデリック殿!」
「お願いしますわ!」
星見の塔は再び慌ただしい空気に包まれた。
数時間後。一行はロデリックが用意した目立たない旅装束に身を包み秘密の通路を通ってヴァロリアへと向かう準備を整えていた。
「…アリア様」出発の間際ロデリックはアリアにそっと小さな水晶を手渡した。「これは念話の水晶です。もしもの時は私に状況をお知らせください。…そしてこれを」
彼はもう一つ古びた羊皮紙の巻物を渡した。「国王陛下からの親書です。ウィルナス陛下との交渉が難航した場合最後の切り札となるやもしれません」
アリアは重々しくそれらを受け取った。
「…リリス様」ロデリックはリリスにも向き直った。「貴女様の懐にある『石』…それが不吉な影を呼び寄せねば良いのですが…」
彼の言葉にリリスは一瞬驚いた顔をしたがすぐにいつもの笑みを浮かべた。
「あらバレてたの? 心配性ね執事長。…大丈夫よこれは私の『保険』みたいなものだから」
ユウマ救出作戦。
それぞれの覚悟と秘密を胸に一行はヴァロリアへと向かう闇の中へと足を踏み出した。
果たして彼らを待ち受けるのは好奇心旺盛な覇王の罠かそれともユウマ自身の更なる暴走か。
物語は再び緊迫の度合いを増していく。




