第百七十九話 帰還の報告と、それぞれの成果(?)
リリスとアリアを乗せた馬車は、夕暮れ時の王都へと静かに到着した。
鉱山での激闘と、聖魔の力を合わせた裂け目の封印。二人とも疲労の色は濃かったが、その表情には確かな達成感が浮かんでいた。
馬車が『星見の塔』の前に着くと、扉の前には、すでにロデリックが完璧な姿勢で待ち構えていた。
「おかえりなさいませ、リリス様、アリア様。ご無事で何よりにございます」
彼は、二人のただならぬ疲労困憊の様子を一瞥したが、表情を変えることなく、深く一礼した。
「ただいま戻りましたわ、ロデリックさん」
アリアが、優雅に微笑む。
「鉱山の問題は、無事に解決いたしました」
「さすがに、骨が折れたわよ」
リリスは、大きく伸びをしながら、馬車から降りた。
「あの老いぼれ執事。何か、労いの言葉くらいないわけ?」
「当然の、務めを果たされたまでかと」
ロデリックは、全く動じない。
「それよりも、詳細なご報告を、ユウマ様が、お待ちかと存じます。…すでに、ガガル様とアイ様も、先ほど、ご帰還なされました」
「あら、あの脳筋とギャルも戻ったの。早かったわね」
リリスは、少し意外そうな顔をした。
塔の中に入ると、談話室からは、ガガルとアイの、やけに明るい声が聞こえてきた。
「―――というわけでな! 我らの連携の前に、グリフォンどもなど、赤子の手をひねるようなものよ!」
「そうそう! マジ、ちょろかったし! 森の平和は、うちらが守ったって感じ?」
二人は、どうやら、自分たちの(というより、精霊たちの)手柄話を、ロデリックに、意気揚々と語っている最中だったらしい。その話には、森を半壊させた後始末の部分は、綺麗さっぱり、抜け落ちていた。
「…戻ったわよ」
リリスが、呆れたように声をかけると、ガガルとアイは、びくりと肩を震わせた。
「おお、リリス殿、アリア殿! ご無事でしたか!」
「そっちは、どうだった? スライム退治」
アリアは、微笑みながら、事の顛末を語り始めた。
鉱夫たちの魂が取り込まれていたこと。聖なる歌で、魂を解放し、混沌粘液を浄化したこと。そして、原因となっていた、魔界への裂け目を、リリスと協力して、封印したこと。
その報告を聞き、ガガルとアイは、顔を見合わせた。
「…なんか、そっちの方が、めちゃくちゃ、大変そうだったな…」
「うん…。うちら、ほぼ、精霊任せだったし…」
二人は、急に、バツが悪そうな顔になった。
「それで?」
リリスは、話を変えるように、ロデリックに尋ねた。
「肝心の、あの子は? まだ、ヴァロリアから、戻ってないの?」
ロデリックは、静かに首を横に振った。
「いえ、それが…」
彼の、完璧な表情が、わずかに、曇った。
「ウィルナス陛下からは、『予定を変更し、賢者様には、しばらく、我が許に、滞在していただくことになった』との、一方的な、通達が、あったのみでございます」
「はあ!?」
仲間たちの声が、揃った。
「あの、イケメン王! 主サマを、独り占めする気!?」
「ユウマ様を、人質に取るというのか! 許せん!」
「…やはり、あの王は、信用なりませんわね…」
仲間たちが、ウィルナス王への、不信感を募らせる中、リリスだけは、冷静だった。
(…あの、合理主義者が、ただ、滞在を延長させるだけ…? 何か、あったわね…)
その時、ロデリックが、一枚の、小さなメモを、リリスに、そっと差し出した。
それは、白銀の機械鳥が、極秘に、運んできたものらしかった。
そこには、ウィルナス王からの、短い、しかし、衝撃的な、メッセージが、記されていた。
『―――『器』、破損。現在、解析中。…ゲームは、一時、中断とする』
「…!」
リリスの、目が、鋭くなった。
(破損…? あの子が…?)
ユウマの身に、一体、何が起きたのか。
ヴァロリアで、何が進行しているのか。
新たな、不穏な影が、一行の元へと、忍び寄っていた。




