第百七十七話 浄化の余波と黒曜石の謎
裂け目は完全に塞がった
鉱山の最深部に漂っていた異界の気配は消え失せた
後にはただ湿った岩肌と静寂だけが残る
「…ふう終わったわね」
リリスは額の汗を拭う
疲労の色は隠せない
「ええ…」
アリアも安堵の息をついた
「これで鉱山も川も元に戻るはずですわ」
二人はもと来た道を引き返し始めた
先ほどまでスライムに覆われていた坑道はただの岩壁に戻っている
鉱夫たちの魂が取り込まれていた気配ももうない
やがて坑道の出口から外の光が見えてきた
二人が鉱山から姿を現すと
入り口で待っていたドワーフの責任者や町の住民たちが駆け寄ってきた
彼らは恐る恐る鉱山の様子を尋ねる
アリアは静かに微笑んだ
「もう大丈夫ですわ瘴気の源は断ち切られました」
その言葉を裏付けるように
町の中心を流れていた灰色の川の水が
上流から徐々に澄んだ色を取り戻していくのが見えた
川岸で横たわっていた魚たちもぴちぴちと跳ね始める
「おお…!」
「水が綺麗になっていくぞ!」
「女神様のお導きだ!」
町の人々から歓声が上がる
彼らはアリアとリリスに向かい感謝の祈りを捧げ始めた
「…まあ感謝されるのは悪くないわね」
リリスは少し照れたようにそっぽを向いた
アリアはリリスに微笑みかける
「帰りましょうリリス様ユウマ様の元へ」
「…そうね」
二人は町の人々に見送られ王都へと向かう馬車に乗り込んだ
その道中二人の間には以前のような刺々しい空気はなかった
互いの力を認め合ったからか
あるいは共通の秘密(ユウマという存在)を抱えたからか
言葉少なながらも奇妙な連帯感が生まれていた
リリスは馬車の窓の外を眺めながら
そっと懐にしまい込んだ黒い石に触れた
(…これは一体…)
ただの石ではない
何かを感じる
魔界のそれとも違うもっと古く根源的な何か
今はまだその正体を探る時ではない
リリスは静かに目を閉じた
一方その頃
北の森ではガガルとアイそして二柱の精霊たちが
無駄にオーバーキルされたグリフォンの残骸を前に
後片付けの方法について揉めていた




