第百六十七話 無限回廊と心の道標
ユウマは古びた木製の扉に手をかけた
ゴクリと喉が鳴る
仲間たちも息を詰めて見守っていた
ゆっくりと扉を開ける
眩い光が溢れ出すかと思いきや
そこにあったのはただ真っ白な空間だった
壁も床も天井もない
どこまでも続く無限の白
道などどこにもない
「…え?」
アイが声を漏らす
「マジで何もないじゃん…」
「罠か!?」
ガガルが戦斧を構える
しかし敵意は感じられない
ただ虚無が広がっているだけ
「ここは…」
リリスが眉をひそめる
「始まりも終わりもない場所…文字通りね
空間の理そのものが剥き出しになっている
下手に動けば永遠に迷うわよ」
ユウマは腕の中のチビすけを見た
宝玉の光はかすかに揺らいでいる
だがその中心の光は一点を指し示していた
白の中のさらに白い一点を
「…あっちだ」
ユウマは呟いた
健太郎の教え心の鏡
自分の心が道を知っている
彼はチビすけの光と自分の直感を信じ真っ白な空間へと足を踏み入れた
仲間たちも覚悟を決め後に続く
ユウマが一歩進むと
足元にだけ石畳が現れた
彼が歩む軌跡だけが道となる
他の仲間が足を踏み入れても道は現れない
ユウマだけがこの空間の理に干渉できている
「おお! ユウマ様が道を!」
ガガルが歓喜する
しかし安心したのも束の間
ユウマの心にわずかな不安がよぎった
(本当にこっちで合ってるのか…?)
その瞬間
目の前の空間がぐにゃりと歪み始めた!
白い壁が現れ行く手を阻む
天井が低くなり圧迫感が襲う
ユウマの不安が迷宮を作り出したのだ
「まずい! 主サマ余計なこと考えないで!」
アイが叫ぶ
「無だ! 無になるんだ!」
ユウマは必死に心を無にしようとする
しかし焦れば焦るほど迷宮は複雑化していく
炎の壁氷の床突然現れる落とし穴
彼の恐怖や焦りが次々と具現化する
仲間たちも影響を受け始めた
ガガルが(腹が減った!)と思うと壁から巨大な骨付き肉が飛び出し
アリアが(女神様お助けを!)と祈ると天井から眩しい後光が差し込み目を眩ませる
「(だめだ…! 俺の心が乱れれば乱れるほど…!)」
ユウマは立ち止まり深く息を吸った
健太郎の言葉を思い出す
『戦う相手は敵ではない君自身の心だ』
『君には守るべきものがあるそれこそが君の揺ぎない理となるはずだ』
彼は腕の中のチビすけを強く抱きしめた
(そうだ俺はこいつを守るんだ)
恐怖も不安も消えない
だがそれ以上に強い想いがあった
父としての絶対的な守護の意志
その瞬間
ユウマの心に一本の真っ直ぐな道が見えた
迷宮の壁が消え去る
炎も氷も落とし穴も霧散する
ただ白の中へと続く確かな一本道
彼の心が定まったのだ
守るべきもののために進むというただ一つの理が
この無限空間の混沌を打ち破った
「…行こう」
ユウマは再び歩き始めた
その足取りにもう迷いはなかった
道の先に微かな光が見える
それは宝玉の輝きかそれとも
ユウマ一行はついに空間の理の中心へとたどり着こうとしていた




