第百五十八話 光の道の先と、自由なる都
「道は、開かれた。行くがいい。…そして、君だけの、『夢』を、掴み取ってこい」
幻獣王フェンリルに認められ、ユウマ一行は、歪んだ建造物の奥へと続く、穏やかな光の道へと足を踏み入れた。
誰もが、この道の先に、七つの創世の宝玉が一つ、『空間の宝玉』が、静かに眠っているのだと、信じていた。
光の中を進むにつれて、周囲の景色は、完全に白一色となり、やがて、その光が収束していく。
一行が、次に目を開けた場所。
そこは、彼らが想像していた、神秘的な祭壇や、古代の遺跡ではなかった。
目の前に広がっていたのは、活気あふれる、巨大な都市の光景だった。
建物は、巨大な樹木がそのまま住居になっていたり、水晶でできたドームがあったり、かと思えば、レンガ造りの、どこか懐かしい商店が並んでいたり。統一感は全くないが、不思議な調和が保たれている。
空には、色とりどりの翼を持つ幻獣たちが飛び交い、地上では、ガガルのようなオークだけでなく、猫や犬、鳥や蜥蜴の特徴を持つ、様々な獣人たちが、楽しげに往来していた。そして、驚くべきことに、森で見たような、擬態する幻獣や、もっと巨大で、威厳のある幻獣たちが、獣人たちと、ごく自然に、肩を並べて歩き、会話を交わしているのだ。
「…な、なんだ、ここは…!?」
ユウマは、その、あまりにも、予想外で、あまりにも、賑やかな光景に、完全に、度肝を抜かれていた。
「…幻獣の…都…?」
ガガルもまた、驚きを隠せない。獣人である彼にとっても、これほど多様な獣人と幻獣が、完全に共生している社会は、見たことがなかった。
「ちょ、マジで!? 超ファンタジーじゃん! てか、あの猫耳の子、ちょーカワイイ!」
アイは、すでに、目を輝かせている。
その時、一行の背後で、再び、フェンリルの、飄々とした声がした。
「―――驚いたかい?」
振り返ると、銀色の狼が、音もなく、そこに立っていた。
「ここが、『幻獣界』の、本当の中心。『夢幻都市アヴァロン』。獣人も、幻獣も、あるいは、夢そのものも、ここでは、皆、平等で、自由なのさ」
「あの…」
ユウマが、戸惑いながら尋ねる。
「『空間の宝玉』は…どこに…?」
フェンリルは、にやりと笑った。
「宝玉? ああ、そんなもの、特定の場所には、ないよ」
「え?」
「『空間の宝玉』はね」と、フェンリルは、街全体を、顎で示した。
「この、都市そのもの、なのさ。あるいは、この都市の、どこか、片隅で、猫のように、昼寝してるかもしれないし、気まぐれに、空を飛んでるかもしれない。…なにせ、『空間』は、どこにでもあり、そして、どこにもないものだからね」
彼は、ユウマを見つめた。
「君が、本当に、宝玉を手に入れたいのなら、力ずくで奪うのではなく、この街の一部となり、宝玉自身に、『面白いやつだ』と、認められる必要があるかもしれないねえ」
その、あまりにも、掴みどころのない、答え。
ユウマは、完全に、途方に暮れた。
宝探しに来たはずが、いつの間にか、この、奇妙な、自由すぎる都市で、「宝玉に気に入られる」という、新たな、そして、あまりにも、曖昧な、ミッションが、始まってしまったのだ。
「…まあ、焦ることはないさ」
フェンリルは、あくびをしながら言った。
「ここは、居心地がいい。ゆっくりしていくといいよ。…ただし」
彼の、星空のような瞳が、一瞬だけ、鋭い光を宿した。
「この街の、『自由』を、脅かすような、無粋な真似だけは、してくれるなよ。『夢』を、壊す者は、たとえ、誰であろうと、俺が、喰らう」
その言葉を残し、フェンリルは、再び、陽炎のように、姿を消した。
後に残されたのは、活気あふれる、しかし、どこか、掴みどころのない、不思議な都市と、そこに、放り出された、ユウマたち一行だけだった。
ユウマは、腕の中の、チビすけを、見つめた。
(…宝玉に、気に入られる…か)
それは、もはや、戦いではない。
彼自身の、あり方が、問われる、新たな、試練。
ユウマは、深く、息を吸い込むと、この、夢と現実が、混じり合う、不思議な都市へと、最初の一歩を、踏み出した。
果たして、彼は、この、自由奔放な世界で、何を見つけ、そして、何を見出されるのだろうか。
彼の、幻獣界での、本当の、冒険が、今、始まった。




