第百三十九話 心の鏡と暴走する理
健太郎の言葉は重かった
ユウマは心を制御することがチビすけを守ることに繋がると理解した
彼の修行への取り組み方が変わった真剣さが増した
「次は物質の理に触れてみよう」
健太郎は書庫にあった水の入った壺を指さした
「あの水の性質を変えてみろ例えば氷に」
ユウマは集中した
呼吸を整え心を静める
水の冷たさ静けさ凍てつく感覚をイメージする
(氷…氷になれ…)
壺の水がゆっくりと白く濁り始めた
表面から凍っていく
「おお…!」
ユウマは成功を確信した
しかし
彼の心の奥底にあったのは冷たさだけではなかった
ウィルナス王への苛立ちエンマへの鬱陶しさ魔王継承戦への不安
それらのネガティブな感情が氷の理と混ざり合った
バキィィィン!!
壺が突然激しい音を立てて凍りつき破裂した!
氷の破片が書庫中に飛び散る
ただ凍るのではなく内部から膨張し爆発したのだ
「うわっ!」
ユウマは咄嗟に身を伏せる
健太郎は冷静に刀の鞘で氷の破片を弾いていた
「…感情が混じると理が歪むか」
健太郎は氷の破片を拾い上げ観察する
「氷という結果だけでなく凍る過程そのものに君の破壊衝動が乗ったらしい」
(俺のせい…?)
ユウマは愕然とした
ただ凍らせようとしただけなのに
「次はもっと単純なものだ」
健太郎は少し離れた場所にある本棚を指さした
「あの本棚に触れずに一番上の本を取ってみろ」
空間操作?念動力?
ユウマは戸惑った
(どうやって…? 手が伸びればいいのか…?)
彼は本棚に向かって手を伸ばし強く念じた届け届け…!
するとユウマの腕がゴムのようにびよーんと伸び始めた!
あっという間に数メートル伸び本棚の一番上の本を掴む
しかしその勢いは止まらず壁に激突!
「ぎゃああああ伸びすぎたああああっ!」
ゴムのように伸びた腕が部屋中を跳ね回り大混乱を巻き起こす
ガシャアン!バキッ!ドサッ!
書庫は再びめちゃくちゃになった
「…………」
健太郎は伸びきったゴムのような腕に絡まれながら静かに呟いた
「…なるほどな具体的な方法をイメージするとその通りになるわけか…あまりにも素直すぎる理だ」
ユウマはようやく腕を元に戻しぐったりと床に倒れ込んだ
(もうだめだ…俺には才能がない…)
自己嫌悪に陥るユウマ
しかし健太郎は静かに言った
「若者よ君は大きな勘違いをしている」
「え?」
「君は力を『制御』しようとしているだが君の力は制御するものではない」
健太郎はユウマの胸元チビすけの宝玉を指さした
「それは君の心の鏡だ君の在り方がそのまま世界に映し出されるだけのこと」
「必要なのは制御ではない君自身の心を澄ませることだ曇りのない鏡となれば世界もまた曇りなく映る」
心の鏡
その言葉がユウマの心に深く響いた
(俺の心が…そのまま…)
彼は静かに目を閉じた
自分の内側にある混沌とした感情
それをただ見つめる
良いも悪いもないただそこにある自分自身として
修行はまだ道半ば
だがユウマは初めて自分の力の本当の姿そして向き合うべき相手が自分自身の心であることに気づき始めていた




