第百三十八話 無心の境地と繋がる心
健太郎は静かに頷いた
杯を浮かせたユウマの無意識の制御
それは確かな進歩だった
「次は光だ若者」
健太郎は書庫に差し込む一筋の陽光を指した
「あの光の粒子その流れを感じてみろ形を変えるのだ」
ユウマはゴクリと喉を鳴らす
光を操る?無理だろ
彼は陽光を見つめ意識を集中させた
(光…光よ動け…!)
念じれば念じるほど陽光はただそこにあるだけだった
むしろ集中しすぎて目がチカチカしてきた
「…やはり力むか」
健太郎はため息をついた
「剣と同じだ斬ろうと意識しすぎれば太刀筋は鈍る無心ただ在るがままに」
無心
その言葉がユウマの心に引っかかった
彼は目を閉じ陽光ではなく自分の内側を見た
怒り悲しみ喜び恐怖面倒くさい
様々な感情が渦巻いている
それらをただ眺める観察する
良いも悪いもないただそこにあるものとして
心が少し静かになった気がした
目を開ける陽光は変わらずそこにある
だがユウマの見え方が変わっていた
光はただそこにあるだけじゃない
それは流れだ絶えず動き変化している
部屋の空気と壁と床とそして自分自身と繋がっている
彼はそっと手をかざした
何も考えなかった
ただ光の流れを感じていた
すると陽光がまるで生き物のようにユウマの手のひらに集まってきた
暖かく優しい光
それは彼の心の形を映すかのように柔らかな球体を形作った
「おお…!」
ユウマは思わず声を上げた
初めて自分の意志で力を制御できた感覚
それは小さなしかし確かな達成感だった
カタッ
その時書庫の外から微かな物音がした
おそらく見守っていた仲間が動いたのだろう
ユウマの集中がほんの少しだけ途切れた
ピシッ!
ユウマの手の中にあった光の球体が弾けた
そして同時に腕の中のチビすけの宝玉が不安げに明滅した
中の五枚の葉が苦しげに揺れている
「!」
ユウマは慌ててチビすけを抱きしめた
(ごめんチビすけ…俺のせいで…)
彼の心の乱れが直接チビすけに影響を与えたのだ
健太郎はその光景を静かに見つめていた
「…なるほどな」
彼は呟いた
「君の心はその宝玉とそして恐らく世界の理そのものと深く繋がっているらしい」
彼はユウマに言った
「君が心を制御することはただ技を磨くことではないそれは君自身と君の大切なものを守ることに直結するのだ」
その言葉は重くユウマの心に響いた
守るべきもの
そのために彼はこの力を理解しなければならない
彼の修行はただの自己満足ではなかったのだ
それは父親としてのそして世界の異分子としての責任そのものだった
ユウマは改めて気を引き締め静かに呼吸を始めた




