第百三十七話 静寂の探求と心の波紋
健太郎との修行は続いた
書庫は静かだ
仲間たちの乱入もない
エンマの説教もない
ただユウマと健太郎二人きり
ユウマは座禅を組む
呼吸を整える
心を静める
世界の理を感じる
自分の心の動きを感じる
最初は難しかった
すぐ雑念が湧く
腹が減ったとか
チビすけ大丈夫かなとか
トーナメント怖いなとか
だが健太郎は何も言わない
ただ静かに隣に座っている
その存在感がユウマの心を落ち着かせた
焦るなゆっくりと
ユウマは感じ始めた
自分の心が穏やかな時
部屋の空気が澄んでいくのを
チビすけの光が優しくなるのを
少しイラっとした時
机の上の羽ペンがカタカタ震えるのを
床の石畳がわずかに軋むのを
感情が波紋のように世界に広がる
その微かな繋がり
ユウマはそれを掴みかけていた
「よし」
ある日健太郎が静かに言った
彼は目の前に小さな水の入った杯を置いた
「この水面を見ろそして心を波立たせるな」
水面は鏡のように静止している
ユウマは杯を見つめた
呼吸を整える
心を無にする
(大丈夫できるできる…)
そう思った瞬間
ピチャン!
水面から小さな水滴が一つ跳ね上がった
ユウマのわずかな力みが水に作用したのだ
「…力みすぎだ若者」
健太郎は静かに指摘した
「制御しようとするのではないただ在るがままを受け入れろ」
(在るがまま…難しいな…)
ユウマは再び杯を見つめる
今度は何も考えないようにした
ただ水面と一体になる感覚
風もなく音もなく
フワッ
杯がひとりでに浮き上がった
そしてユウマの周りをゆっくりと一周し元の場所に着地した
中の水は一滴もこぼれていない
「…ほう」
健太郎の口元にわずかな笑みが浮かんだ
「無意識の制御か…面白い面白いぞ若者」
ユウマは自分のやったことに気づかず首を傾げていた
(あれ? 杯動いた?)
彼の修行はまだ始まったばかり
しかしその静かな探求は確実にユウマの内側に変化をもたらし始めていた
世界の理と彼の心そのものが少しずつ調和し始めていたのだ
たとえ本人が全く自覚していなくても




