第百三十二話 理の探求と心の在り方
健太郎によるユウマの修行は静かに始まった
場所は離宮の広大な書庫健太郎がガガルたちを丁寧に「外で待っていてくれ」と説得し二人きりの空間を作った
「まず君が先ほど語ったその力の一端それをこの石に見せてみてくれ」
健太郎は静かに言った床に置かれたただの丸い石を指さす
「何かを意図して起こすというより君の心の状態が世界に影響を与えるのだろう? あの時のような絶望でも他の感情でもいい思い出せるか」
「え…」
ユウマは戸惑った
「どうすればいいのか…いつも勝手に起こるだけで…」
「意識するな」
健太郎は言った
「ただあの時の感覚心の在り方を思い出せ君の心が動いた時世界はどう応えるのかそれを見る」
ユウマは目の前の石ころを見つめた
(絶望…? 救いを求めてた時…? 怖かった時? 面倒くさいって思った時…? どうすれば…)
彼は必死に過去の感情を呼び起こそうとした何でもいい何か起これ…!
しかし石はただの石ころのままだった
「…できません」
ユウマは俯いた
「力んでいるな」
健太郎は静かに指摘した
「君の力は意図して振るうものではないようだむしろ逆意思を手放した時にこそ顕れるらしい」
健太郎の目はユウマの内面の揺らぎを正確に捉えていた
「意思を手放す…?」
「そうだただ在るがままを受け入れる君自身の感情さえも」
健太郎は刀を抜きゆっくりと構えた
「例えばこの刀本来は鉄の塊だだが打ち鍛えられ研ぎ澄まされ『斬る』という理を与えられた」
彼は刀を振るう動きではなくただ存在する刀の「理」を示す
「君の力も同じだ感情という熱で打たれ状況という砥石で研がれるその結果として世界に現れる『理』そのものなのだろう」
禅問答のような言葉ユウマには半分も理解できなかった
だが健太郎の静謐な佇まいと刀の持つ存在感が彼の心を落ち着かせた
「もう一度だ若者」
健太郎は言った
「何かをしようとするなただ感じろ君自身の心をそして目の前の石を」
ユウマは再び石を見つめた
(ただ感じる…石…石ころ…重い…硬い…ざらざらしてる…俺の心は…今…)
彼は意識を集中させようとした
ドガアァァァン!!
突然書庫の壁が破壊されガガルが巨大な岩を抱えて乱入してきた
「ユウマ様! 石ころなどではなくこの巨大な岩石で試しましょうぞ!」
彼は善意100%で岩をユウマの目の前にドスンと置いた
「ガガルさん!」
ユウマの集中が完全に途切れる
「まあガガルさんお静かになさいませ」
今度はアリアが聖水を満たした杯を持って現れた
「賢者様修行でお疲れでしょう聖なる水で心を清め…」
「主サマ! やっぱこれだって!『無の境地に至る! メンタルリセット魔術』!」
アイがまた怪しげな本を持ってくる
「「「邪魔だあああああっ!!」」」
ユウマはついに叫んだ
その瞬間
ユウマが手に持っていたノミ(なぜか持っていた)が彼の怒りに反応したかのようにひとりでに浮き上がり
ガガルが持ってきた巨大な岩に向かって高速で飛んでいきカンカンカンと火花を散らしながら見事な般若の面を彫り始めた
「「「……………」」」
書庫が再び静寂に包まれる
健太郎は彫刻される般若の面とユウマを交互に見比べた
そして静かに呟いた
「…なるほどな感情のベクトルがそのまま形になるか…厄介だが面白い」
ユウマは般若の面を彫り続けるノミを見ながら思った
(俺の修行絶対間違った方向に進んでる…)
健太郎による理の探求は始まったばかり
しかしその道はやはり混沌とギャグに満ちているようだった




