第百二十七話 離宮の日常と、最初の特訓(?)
アスモデアの東の離宮での生活が始まった。
そこは、王都の『星見の塔』や、ヴァロリアの『鳳凰の間』とは、また違った種類の、豪華絢爛な場所だった。黒曜石と、血のように赤い宝石で飾られた、いかにも魔界貴族らしい、悪趣味スレスレの意匠。しかし、広さは、もはや城そのものだった。
そして、その広大な離宮には、ユウマ一行だけでなく、彼を慕ってついてきた、数十名の元奴隷たち――ユウマの、最初の「領民(?)」たちも、住むことになった。
彼らは、最初こそ、その豪華さに戸惑っていたが、持ち前の、(過酷な環境で培われた)たくましさで、すぐに、離宮での生活に、順応していった。
ある者は、厨房で、腕を振るい、
ある者は、庭の手入れをし、
また、ある者は、かつての、職業(鍛冶屋や、商人)の知識を生かし、離宮の、機能維持に、貢献し始めた。
彼らにとって、ユウマは、希望の象徴であり、彼に仕えることは、最高の喜びだったのだ。
その、どこか、歪んだ、しかし、確かに、温かい、新たな日常の中で。
ユウマは、一つの、大きな問題に、直面していた。
―――魔王継承戦への、出場。
「して、ユウマ様!」
ガガルが、目を輝かせて、詰め寄ってきた。
「トーナメントまで、あと、一月! この、絶好の機会に、我が主君の、その、隠されたる、真の御力を、完全に、覚醒させるための、特訓を、開始いたしましょうぞ!」
「特訓…?」
ユウマの、顔が、引きつる。
「まずは、基礎体力作りから! このガガルが、貴方様を、魔界最強の、戦士へと、鍛え上げてご覧にいれます!」
ガガルは、すでに、やる気満々で、ユウマの身体を、持ち上げようとしていた。
「いやいやいや! 無理だから! 俺、そういうの、苦手だって!」
「まあ、ガガルさん」
アリアが、優雅に、ガガルを制した。
「賢者様に、必要なのは、そのような、肉体的な鍛錬では、ありません。むしろ、その、聖なる、精神力を、さらに、高めるための、瞑想と、祈りの、時間こそが…」
彼女は、ユウマの手を取り、聖堂のような、静かな部屋へと、連れて行こうとする。
「ちょ、どっちも、違うって!」
アイが、間に割り込んだ。
「主サマに必要なのは、そんな、根性論じゃないって! 要は、あの、よく分かんない、『概念ナントカ』を、コントロールできるようになれば、いいんでしょ? ゲームの、裏ワザみたいなもんだし!」
彼女は、どこからか、持ち出してきた、怪しげな、魔導書を、ユウマの目の前に、突きつけた。
「これ、読んでみ? ウチのじいちゃんの、隠しコレクション。なんか、世界の、バグらせ方とか、書いてあるらしいよ?」
肉体改造派。
精神修養派。
裏ワザ攻略派。
三者三様の、あまりにも、的外れな、特訓プラン。
その、カオスな、議論を、ソファの上で、リリスが、面白そうに、眺めていた。
彼女は、ユウマに、助け舟を出すつもりは、毛頭なかった。
ユウマは、頭を抱えた。
(どうしよう…どれを選んでも、地獄しか、見えない…)
彼は、ふと、腕の中の、チビすけを、見つめた。
チビすけは、そんな、父親の、苦悩を知ってか、知らずか、ただ、無邪気に、虹色の光を、放っている。
その、宝玉の中には、今や、五枚の、小さな葉―――生命、魂、知、風、水、土、火の、理の、欠片が、宿っている。
(…そうだ)
ユウマの中に、一つの、考えが、浮かんだ。
(俺自身が、強くならなくてもいいのかもしれない)
(こいつが、強くなれば。俺が、こいつを、守れるようになれば…)
それは、彼なりの、父親としての、結論だった。
ユウマは、仲間たちの、熱い、視線を、振り切ると、チビすけを、そっと、両手で、包み込んだ。
そして、目を閉じ、意識を、集中させた。
父親として、我が子の、成長を、願う。
ただ、その、純粋な、想いだけを。
ユウマの**『我が子の、成長を願う、父性』**。
それが、引き金だった。
【ユウマの『父性(成長してほしい)』という概念が、チビすけの中に宿る、五つの『宝玉の欠片(可能性)』と、共鳴・増幅される】
ピキッ。
ユウマの手の中で、チビすけの宝玉に、小さな、小さな、亀裂が入った。
そして、その亀裂から、これまでとは、比べ物にならない、圧倒的な、虹色の光が、溢れ出した!
光は、部屋全体を、満たし、仲間たちの、目を、眩ませる。
やがて、光が収まった時。
ユウマの、腕の中にいたのは、もはや、ただの、光る宝玉ではなかった。
そこには、宝玉から、孵ったばかりの、小さな、小さな、緑色の、スライムのような、ぷるぷるとした、生き物が、眠っていた。
その、半透明の、身体の中には、五色の、小さな光の点が、星のように、輝いている。
「……………生まれた…」
ユウマは、呆然と、呟いた。
特訓を、しようとしたら、子供が、生まれた。
もはや、彼の、人生は、何が、起きても、おかしくなかった。
仲間たちは、言葉を失い、ただ、その、奇跡の、誕生を、見つめていた。
そして、その、小さな、スライム(チビすけ)が、ゆっくりと、目を開け、初めて、ユウマの顔を、見上げ、そして、にぱっ、と笑った、その瞬間。
ユウマの、心は、完全に、決まった。
どんな、試練が、待っていようと。
どんな、強大な敵が、現れようと。
この、笑顔を、守る。
ただ、それだけのために、戦おう、と。




