第百九話 王たちのゲーム盤と、賢者の選択肢
「賢者ユウマよ。俺の、この、新たな、盤面で、今度は、どんな、奇跡を、見せてくれる?」
ウィルナス王の、あまりにも、楽しそうな、挑戦状。
ユウマの、引退生活は、開始五分で、終わりを告げ、彼の、意思とは、全く、無関係に、二つ目の、創世の宝玉を巡る、壮大な、冒険の、幕が、上がってしまった。
王都を、後にした、一行の馬車の中は、奇妙な、熱気に、包まれていた。
「おお! 次は、『知の宝玉』か! 我が主君は、文武両道の、覇王となる、おつもりなのだな!」
ガガルは、ユウマの、新たなる、宝探し(と、彼が思い込んでいるもの)に、興奮を、隠せない。
「知の宝玉…。その、深遠なる、知識は、きっと、世界を、平穏へと、導く、光となりましょう…」
アリアは、すでに、その、まだ見ぬ、秘宝に、祈りを捧げている。
「え、てか、図書館に行けるってこと? やば! 超オシャレじゃん! 知的なデートって感じ!?」
アイは、完全に、遠足気分だった。
ユウマは、そんな、仲間たちの、熱狂を、BGMに、ただ、静かに、頭を抱えていた。
(もう、どうにでもなれ…)
一行は、ウィルナスが示した、地図の、座標―――『全知の書庫』が、明日、出現するという、広大な、古代の、石畳平原へと、向かっていた。
その、道中だった。
馬車の中の、空間が、再び、ぐにゃり、と歪んだ!
そして、ユウマの足元の影から、まるで、闇が、人の形を、取ったかのような、漆黒の、魔物が、ぬるり、と、現れ、その場に、跪いた。
先日、ガガルが命を落とす、きっかけとなった、魔界からの、使者だった。
『―――我が主、魔将軍ザラキエル様より、賢者様へ』
魔物は、不気味な声で、そう言うと、呪いの文字が、刻まれた、黒い、羊皮紙を、差し出した。
それは、ウィルナス王と、ベルゼビュート、二人の王が、ユウマを巡る「ゲーム」を、続けるという、合意の、証だった。
リリスが、それを、受け取り、読み上げる。
「『人の子の、小賢しい、謎解きに、付き合うな、『器』よ。真の、力とは、書物の中には、ない』」
その、文字から、魔将軍ザラキエルの、傲岸不遜な、声が、直接、響いてくる。
『貴様の、望みが、宝玉であるならば、もっと、手っ取り早い、道が、ある。…我が、魔界へ、来い。七つの宝玉が、一つ、『力の宝玉』の、在り処を、教えてやろう。…小賢しい、知識か。絶対的な、力か。…さあ、選べ』
「なっ…!」
ガガルが、激昂する。
「また、あの、魔将軍か! 懲りぬ奴め!」
しかし、その、ガガルの、怒りの声に、被さるように。
ユウマの胸元で、**ブブブッ!**と、『冥王の宝珠』が、激しく、振動した!
『―――待て』
エンマの、冷徹で、不機嫌、極まりない、声が、響き渡る。
『『全知の書庫』も、『力の宝玉』も、どちらも、世界の、理を、大きく、乱しかねん、特級の、危険物である! 許可なく、近づくことは、冥界法第十八条、『世界間均衡維持法』に、違反する!』
「「「!?」」」
エンマは、一方的に、続けた。
『よって、特級保護観察対象、佐藤優馬には、これより、第三の、選択肢を、提示する!』
『まず、我が冥界の、在外公館にて、『宝玉探索許可申請書』、様式3B-72を、提出せよ! 身元保証人(リリス殿)の、サインと、印鑑を、取り付け、入国管理局の、審査を、待つのだ! それが、唯一、合法で、安全な、道である!』
静寂が、馬車の中を、支配した。
ユウマの、目の前には、三つの、絶望的な、選択肢が、提示されていた。
ウィルナス王の、危険な、実験台になる、『知の宝玉』ルート。
魔界の、明らかに、罠である、『力の宝玉』ルート。
冥王エンマの、気が、遠くなるほど、面倒な、お役所仕事ルート。
(どれも、嫌だああああああああっ!!)
ユウマは、頭を抱えた。
彼の、仲間たちは、その光景を、キラキラした、目で見つめている。
((((おお…! 三人の、王が、ユウマ様の、次なる、一手と、寵愛を、巡って、争っておられる…!))))
ユウマは、ただ、静かに、思った。
(…とりあえず、一番、話が、早く、終わりそうなのは、どれだ…?)
彼は、震える、指先で、ウィルナス王の、機械鳥が、置いていった、地図を、とん、と叩いた。
「…これに、します…」
それは、戦略的な、判断ではない。
ただ、目の前に、物理的に、地図が、存在する、という、ただ、それだけの、理由だった。
その、あまりにも、消極的な、選択。
しかし、それは、三人の、王の、ゲーム盤の、次なる、駒を、決定づける、一打となった。
『…フン、賢明な、判断だ』と、ウィルナスの鳥が、満足げに、鳴き。
『…愚かな、選択を』と、魔界の使者が、影の中に、消え。
『…規則違反だぞ、佐藤優馬! 始末書を、提出しろ!』と、冥王の宝珠が、けたたましく、警告音を、鳴らし始めた。
ユウマは、その、全ての、喧騒を、聞きながら。
ただ、ひたすらに、自分の、選択が、正しかったのか、どうか、全く、自信がないまま、次なる、面倒事の、舞台へと、運ばれていくのであった。




