第1話:勘違いはチートスキル!最弱の土下座は絶対服従の呪い
転生と最悪のギフト
「やあ、転生者よ」
次に意識を取り戻した時、佐藤ユウマ(29歳、元コンビニ店員)は、光と闇が渦巻く神々の空間に立っていた。
目の前には、慈愛に満ちた光を放つ女神と、宇宙の闇そのものを翼に変えたような魔神が、彼を見下ろしていた。
女神が微笑む。
「我は世界の調和を司る女神。そなたの新しい人生を祝福し、ギフトを授けましょう。**『光の衣』**です。それを持つ者は、あらゆる人々から絶対的な信頼を得るでしょう」
続いて、魔神が歪んだ笑みを浮かべた。
「フン、信頼だと? 我が与える呪いの方がよほど強力だ。小僧、貴様には**『災厄反転』**を植え付けてやる。貴様に対する悪意は、百倍になって相手自身に跳ね返る究極の呪いだ。一瞬で消し炭になるがいい!」
ユウマは愕然とした。片方は強制的に人々の輪の中心に立たせる**「超絶目立つ特典」で、もう片方はいつ発動するかわからない「即死級の地雷」**。どちらも、心底いらなかった。
「あ、あの、すみません! 僕は目立たず、静かに、ひっそりと暮らしたいんですが……!」
その願いを聞いた瞬間、魔神は腹を抱えて笑い出した。
「ハハハ! 小僧、今まさに貴様の願いが、最悪の呪いの引き金を引いたぞ! **『概念誘導』**の発動だ!」
「貴様の**『目立ちたくない』という切なる願いこそが、周囲の『信仰』や『欲望』をトリガーとし、貴様の全行動を『最も極端な概念』へとねじ曲げる**のだ! 地味に暮らそうとすればするほど、貴様は世界で最も目立つ存在となるだろう! さあ、新たな世界で絶望するがいい!」
断末魔の悲鳴を上げる暇もなく、ユウマの意識は光に呑まれた。
平穏を願うだけの男の人生は、こうして究極の勘違いチートという、最悪の形で幕を開けた。
最弱の土下座は最凶の呪い
ユウマが次に目覚めたのは、月明かりだけが差す鬱蒼とした森の中だった。彼の身体は『光の衣』のせいで、夜闇の中でもランタンのようにぼんやりと光っている。
「最悪だ……。僕は歩く提灯か何かなのか」
これでは獣や盗賊にすぐ見つかってしまう。ユウマは必死に周囲を探し、いかにも不気味な洞窟を見つけると、そこを寝床に決めた。暗い洞窟なら、この忌々しい光も目立たないはずだ。
だが、彼の儚い平穏は、数日後の地響きによって無慈悲に打ち砕かれた。
洞窟の前に現れたのは、巨大な戦斧を担いだオーク。その全身から放たれる凄まじい覇気と殺意は、彼がただの魔物でないことを示していた。魔王軍幹部、ガガルである。
ガガルの血走った目が、洞窟の奥で光るユウマを捉えた。その視線には、明確な殺意――悪意が宿っている。
(まずい! これは僕に対する『悪意』だ! アレが百倍になって跳ね返ったら、この洞窟どころか森ごと吹き飛ぶぞ! 『災厄反転』が発動する前に、何とかしないと!)
思考が追いつくより早く、ユウマの身体は前世で培った究極の自己保身術を発動させていた。顧客からの理不尽なクレームを前に、彼が唯一取れた最強の防御策。
ガッ!
ユウマは地面に両手をつき、額を岩肌に打ち付ける勢いで土下座した。
「た、助けてください! 僕は何もしていません! どうか命だけは……!」
その瞬間、世界が歪んだ。
ユウマの**『降伏の概念』が、ガガルの『殺意という名の欲望』をトリガーとして『概念誘導』を発動。さらに、その殺意が『災厄反転』**の術式に触れ、反転・増幅された。
【ユウマの『命乞いの概念』が悪意と見なされ反転 → ガガルの魂に『絶対忠誠の概念』として百倍に増幅され刻み込まれる】
ガガルの戦斧が、ガラガラと音を立てて地面に落ちる。彼は全身をわなわなと震わせ、土下座するユウマの姿を凝視していた。
「……お、恐るべき呪術!」
次の瞬間、ガガルはユウマよりさらに深く、額を地面に擦り付けてひれ伏した。
「これほどの**『絶対服従の呪い』を、あえて自ら降伏することで発動させるとは、まさに反転の極致**! 偉大なる魔王ユウマ様! 貴方に向けた我が敵意は、今や魂に刻まれた絶対の忠誠へと変わりましたぞ!」
「え? 魔王……? あの、僕はただの一般人で……」
「お言葉を! 『一般人』とは、力の概念すら超越した、この世の真理そのものを指すのですね! このガガル、永遠に貴方様の忠実なるしもべとして、世界を絶対服従の概念で満たしてご覧にいれます!」
(土下座が絶対服従の呪い!? なんで僕の**『命乞い』が『魔王の概念』**に変換されるんだよ!)
ユウマは、目の前のオークが宇宙規模の勘違いをしていることに、ただただ絶望した。
聖なる誤解と従者の獲得
ガガルという、あまりにも物騒な従者を得てしまったユウマは、情報収集のため、しぶしぶ街へ向かうことにした。
その道中、彼らの前に、神聖なローブを纏った一人の女性が静かに立ちはだかった。女神の教会の聖女候補、アリアだ。
彼女はユウマの身体から放たれる**『光の衣』**の聖なる輝きと、そのユウマに恭しくひれ伏す魔王軍幹部の姿を見て、感極まったように目頭を押さえた。
「ああ……やはり! 貴方様こそが、闇を討つためにあえて闇の力をその身に引き受けたという、伝説の**『聖なる闇の賢者』**様でしたか!」
アリアはユウマの足元に、迷いなく跪いた。
「貴方様の聖なる献身に、私の信仰は絶対のものとなりました! このアリア、あなたの聖なる使命を、我が身命を賭して護衛いたします!」
「ええっ!? 神官さんまで!?」
ユウマは完全に混乱していた。
「ち、違います! ガガルは僕の土下座で勘違いしただけで……」
「お黙りください、賢者様!」アリアは熱に浮かされたように語る。「その**『土下座』とは、闇の勢力すらも屈服させるための、究極の慈悲の儀式**なのでしょう! そして、この魔族は、世界を救うための生贄として、貴方がお連れになっているのですね!」
ユウマの**『概念誘導』は、アリアの強烈な『信仰心』をトリガーとし、彼の行動全てに「聖なる意味」を付与してしまった**のだ。
「なんと! ユウマ様は、聖女までをも従えられるとは!」ガガルも興奮気味に叫ぶ。
あまりのストレスに、ユウマのお腹が「ぐぅ~」と鳴った。
「は、腹が減った……」
その呟きを聞いたガガルが、即座に反応した。
「ユウマ様! どうぞ、この私の腕を!」
「いらないから!」
最弱の土下座は、神官と魔王軍幹部という、相性最悪にして実力最強の従者をユウマに与えた。
ユウマの目立たない平穏な生活は、こうして完全に終わりを告げたのだった。




