表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

カップル麺

 今年も嫌いな季節がやって来た。12月。街はカップルで賑わう。そんな幸せ真っ盛りの連中を横目に、俺は腹を空かせてバイトに明け暮れる毎日だ。


ひろし、頑張ってるな。これ置いとくぞ」


 店長からの差し入れだ。赤いきつねと、緑のたぬき。どちらか選べと言うことか。キャンディの色の選択を迫られた、ネオの気分である。


 俺、東洋あずまひろしは、この赤いきつねと緑のたぬきが大好物である。だが、この時期はちょっぴり複雑な気分だ。クリスマスカラーを連想させるからである。


 世のカップルは、デートに高級イタリアンを利用したりすると聞く。このイタリアカラーのカップ麵が、また俺を惨めな気分にさせる。


 大方の予想通り、年越しのシーズンは緑のたぬきの売り上げが上昇する。クールになったと言われる日本人も、まだまだこうしたイベントごとを楽しむ余裕はあるようだ。


 意外だったのは、うどん人気が高いはずの西日本で、緑のたぬきの売り上げが高いということである。メーカー担当者によると、そもそも西日本にはそばの店が少なく物珍しいからという分析だった。なるほど、こうしたことは立派に学問の研究テーマになりそうだ。


 商品の売れ行きに貢献するのは味はもちろんのこと、パッケージや商品名が重要であるのは言うまでも無い。赤いふたに白いカップ。お稲荷さんの鳥居のイメージと、嫌でも日本人であることを思い出させるカラーリング。簡潔でキャッチーなネーミング。こうしたことが国民食の座に登り詰めた理由なのだろう。


 売れ行きの伸び悩んだ商品が、中身は同じなのに名前を変えただけで大ヒットしたという例は、そこかしこにある。もし俺にこどもが出来たときは、心に留めておきたい。


「先輩、さっきからなにブツブツ言ってんスか?」

 後輩の西京子にしきょうこである。俺はキョン子と呼んでいる。


「うむ。赤いきつねか、緑のたぬきか。それが問題なのだ」

「確かにそれは悩むっスね!」

 こんな俺にも話し相手になってくれる。言葉遣いは少々軽いが。


「先輩。ところで、赤いきつねは待ち時間が5分なのに、緑のたぬきは3分なんスね」

 いまごろそれに気付くとは、初級だな。


「当然だな。麵の太さが全然違うからな」

「先輩はせっかちだから、やっぱたぬきっスか?」

 いま誰かがこの会話を聞いたら、俺がののしられているように聞こえるだろう。


「俺はうどんとそばで言えば、断然そば派なんだ。だがな、ことこの選択肢で言えば、赤いきつね派なんだよ」

 同じようなことを言っている人間が、ネット上にも散見された。


「へへっ、うまいっスもんね、赤いきつね。じゃあボクはこっちをもらいますよ」

 ボクっ子のキョン子は、俺に気を遣って緑のたぬきを手に取ろうとした。


「ちょっと待った!」

「へ?」


「このイベントラッシュの時期に、そのまま食べるだけでは寂しすぎるだろう?」

「それもそうっスね」


 俺は冷蔵庫を開けた。泊まり込みのアルバイトたちのために、冷凍の唐揚げと牛のバラ肉、そして玉子が用意されていた。店長の泣けるような配慮である。


「先輩、まさか!」

「そのまさかさ」


 俺たちは夜食の準備に取りかかった。


 俺はこの高級食材を解凍すると、赤いきつねには唐揚げを、緑のたぬきには牛バラ肉を投入した。玉子はお好みである。


「うわー! 先輩、これめちゃくちゃ美味いっスー!」

「だろ、世界一の味だぜ」


 こうして、赤いきつねと緑のたぬきは、幸腹なカップルを日夜生み出し続けている。


 数日後、匿名の荷物が二人の元に届いた。赤いきつね3ケースと、緑のたぬき3ケースであった。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ