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白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。  作者: 美杉。(美杉日和。)6/27節約令嬢発売中


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エピローグ 幸せはココに

 重厚な扉の向こうから、華やかな音楽と集まった人たちの声がほんの少し聞こえる。

 しかしここは、驚くほど静かだ。


 私はため息を一つつきながら、目の前の鏡に映る自分を見た。


 今この時点でも、まだ自分の置かれた状況がうまく理解出来てはいない。

 ただ分かるのは、緊張で昨日から何も食べられなかったお腹が少し鳴っただけ。


「緊張で、口から何か出て来そうよ」


 そう呟けば、後ろで最後の打ち合わせをしていたブライズメイドの一人が声を上げる。


「辞めてよね、そのドレス死ぬほど高いんだから」


 彼女に言われなくともそれは分かっている。

 衣装合わせの際に、値段など気にしないと言った人たちを蹴倒したい気分だ。


 座った先に広がるまばゆいばかりのドレスを見た。


 幾重にも重なった柔らかな白いチュールは、波のように床にまで広がっている。

 しかしそれよりも目を引くのは、金の細やかな刺繍だ。


 バラの花をモチーフとしたそれは細部にまで施され、しかも手縫いだという。


 金額を聞いた瞬間、私は倒れるのではないかと思ったほどだ。

 なのに、問題ないとか勝手に答えちゃう人がいるし。


 いくら自分が出さないとはいえ、やはり気が引けてしまう。

 元平民でもあり、商人のサガよね。


「はぁぁぁぁぁ」


 だけどこのドレスは、バラ病の感染拡大を抑えた功績として国より贈られたものだった。

 

 そしてそう、この結婚も国が全面的に支持した結果といえよう。

 そうじゃなければ、いくら次男とはいえ私が公爵家の人間と結婚するなどありえないことだから。


「まったく往生際が悪いわね。いつまでため息ついてるつもり?」

「だって、信じられる? 私、結婚するのよ?」

「そりゃあ見れば分かるでしょう」


 見ればわかる。見ればわかるんだど、往生際が悪いと言われたって、やっぱり……。


「貴女が早く結婚してくれないと、その後が詰まっているんだから辞めてよね」

「うー。そんなこと言わないでよ、マリアンヌ」


 私の機嫌などまったく気にすることなく、マリアンヌは私にブーケを手渡す。


 あの日からちょうど一年。

 確かに再婚というには、ややまだ早い。

 だけど周りからの後押しもあり、日程はすぐに決められてしまった。


「それ、あたしに投げてくれるんでしょう?」


 前よりも柔らかくなったマリアンヌが、私に微笑みかけながらブーケを指さした。

 

「もう恋なんて懲り懲りだって言っていたのに」


 あの日、マリアンヌは一命を何とか取り留めたものの、傷があまりに深かったせいか、三か月近く療養生活になってしまった。

 

 そんな中、彼女に付き添った医師が、どこまでも手厚く看病をしてくれたという。


 ダミアンのことで憔悴しきり、傷ついたマリアンヌはその医師の優しさに癒され、恋に落ちたのだという。


 私も何度か会ったが、今のマリアンヌのように優しく微笑む人だった。

 誰にでも優しく、時に厳しく。

 あんな男と付き合っていたのがもったいなく思えるくらい、今のマリアンヌの恋人は素敵に思えた。


 一度は全てを諦め、私のメイドになると言った彼女を彼は泣きながら引き留めてプロポーズしたのだという。


「そうね。追いかける恋は懲り懲りよ。だからあたしだけを愛してくれる人を見つけたの」

「今度こそ幸せになってよね」

「それはこっちの台詞よ」


 私たちはおでこを突合せ、声を出して笑う。


 私にとって、三度目の結婚式が始まる。

 二度目の結婚式はただ復讐の始まりだったけど、今回は……。


「さぁ、今か今かと首を長くする新郎の元に行くわよ。あたしの親友を渡すのは癪だけどね」


 そんな風に言いながら、マリアンヌは舌を出す。

 

「ありがとう」


 私は彼女の手を借りて立ちあがる。

 もう先ほどまでの緊張感はない。

 ただ胸にあるのは、マリアンヌがくれた優しさと温かさだけ。


 重厚なる扉が開くと、そこには白いタキシードを着たブレイスが立っていた。


 私を見るなり、その顔がほころぶ。


「綺麗だ、アンリエッタ」


 私はその手を取ると、二人で歩き出す。

 高い教会の天井のステンドグラスからは光が降り注ぎ、私たちを祝福しているようだった。


「ブレイズ様……やっと幸せになれそうです」


 小さく呟くと、彼は一瞬驚いたようにこちらを見たあと、ただ静かに微笑み返してくれる。


 長かった。本当に。

 だけどやっと、あの日一度死んだ人生の清算が全て終わって、やっと新しい時が始まり出した。

 そんな気がする。


 ここにある幸せに、ただ包まれていた。

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― 新着の感想 ―
マリアンヌが生きてて良かった。彼女も幸せになりそうで何より。
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