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白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。  作者: 美杉。(美杉日和。)6/27節約令嬢発売中


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072 行違った思いの先

 しかし衝撃は一つではなかった。

 体当たりしてきた人の体が私に覆いかぶさるとほぼ同時に、さらにその上から突き出されるような衝撃が加わる。


「なんなの⁉」


 茶色いマントを被り、覆いかぶさった人の顔は見えない。

 しかし崩れたその人の先にいる人物の顔は、はっきりと見えた。


 もう一つの衝撃。

 それは、ナイフを持ったダミアンがもたらしたものだった。


「ダミアン……様」


 震える彼の手にあるナイフには、べったりと血のりが見える。

 滴り落ちるその血を、ダミアンは青ざめた顔で見ていた。


「血?」


 待って、これはどういう状況?

 あれは誰の血なの?


 ナイフを持ったダミアン。

 それは確実に人を刺したあとのものだと分かる。


 でも私は無傷だ。

 だったら……。


 手に、温かな感触が伝わってくる。


 見ればそれはあふれ出る血だった。


 私は自分に覆いかぶさるマントを被った人間に目をやる。

 震え出す手。

 息を吸うことさえ忘れるほどの時間。


 ゆっくりとマントをはがし、その顔を見た。


「マリアンヌ様!」


 意味が分からなかった。

 いや、状況からその意味は理解できたのだけど。

 でも頭がそれを理解することを拒んだ。


「なんで、なんで、なんで、なんで!」


 怒りなのか悲しみなのか。

 私はあふれ出る血を押さえようと、きつく手を当てる。


 しかしその傷口は深いのか、出血は止まらない。


「何やってるのよ!」


 睨みながら叫べば、ダミアンは手に持ったナイフを地面に落とした。

 そして青ざめた顔で、その場にへたり込む。


「ちがう、違うんだ……こんなはずじゃなかったんだ……ぼくは悪くない、ぼくは悪くない。悪いのはおまえたちじゃないか」


 この期に及んで、この人は何を言っているのだろう。

 平民になることを納得しないとは思っていた。


 だからといって、やっていいことと悪いことがある。

 一番初めにマリアンヌを騙したのは自分じゃない。


 なのにその嘘をつき通すこともなく、彼女の幸せをこんな風に壊すなんて。


 こんなことになるのなら、何が何でもあの時止めればよかった。

 大事だったのに。

 マリアンヌはこの世界で出来た唯一の友だちだったのに。


「ふざけないでよ! あんたがいけないんでしょう。マリアンヌは、ただあなたと幸せになりたかっただけなのに!」

「うるさい! ぼくはそんなもの望んでいなかった」

「だったら初めから、彼女を解放しなさいよ! マリアンヌはただあなたのことを心から愛していただけなのに」


 ぼろぼろと涙がこぼれる。

 許せなかった。この男も自分も。


「貴様!」


 騒動に気付いたブレイズが、へたり込むダミアンを殴り飛ばした。

 辺りには人だかりができ始める。


「誰かお医者様を!」


 私の言葉に何人かが駆け出して行った。


「マリアンヌ死なないで……」


 血の気のない彼女の顔に触れる。

 すると意識を取り戻したのか、マリアンヌがうっすらと目を開けた。


「マリアンヌ!」

「アンリエッタ……」

「どうしてこんな危険なことをしたのよ。今お医者様を呼んでもらっているから」

「無事?」


 肩で息をしながらも、マリアンヌは私にそう尋ねる。

 自分がこんな状況だというのに。


「私は無事よ。あなたのおかげでね」

「……よかった……。今度は……ちゃんと助けられた」

「今度って」


 ダミアンに殴られた日。

 マリアンヌは誰よりずっと泣いていた。


 食事も喉を通らぬほどにやつれ、私が怪我を負ったことを悲しんでくれた。


 あの日から、私たちの仲はグッと近づいた気がする。

 だけど今でも、マリアンヌがあの日のことを悔やんでいるとは思わなかった。


 マリアンヌのせいではないと、何度も言い聞かせたのに。


 涙の止まらない私とは対照的に、マリアンヌはただ微笑んでいた。

 そしてゆっくりとまたその目を閉じる。


 雲一つない高い空に、私の叫び声だけが響き渡って行った。

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