057 力の証明
外の世界は、どこまでも高い青空が広がっていた。
雲一つなく、真っ青だ。
生きてる。生きて出られた。
そう実感するのもつかの間、私は急いで地下へと続く道に鉄の蓋を当てはめた。
閉めてさえしまえば、ねずみたちはいつも通りの生活に戻るだろう。
でも今回のことはきちんと報告しなくちゃ。
あれだけねずみが一気に増えていたとなると、次の掃除の時に絶対に事故が起こる。
そうじゃなくても、きっとお父様なら前回よりも危険だからと値段を吊り上げるはずね。
もしそうなれば、私が怪我をしたことだって許してくれるかしら。
ああ、そうだわ。
娘が怪我をしたって訴えれば、元々地下の管理は国の役目だもの。
慰謝料みたいなのを請求できるかもしれないしって言えば、きっと大丈夫よ。
「大丈夫?」
そう言いながら、助けたその子が私をのぞき込む。
きっとずっとしゃべらなかったから、焦らせてしまったようだ。
改めて、その子の顔をゆっくりと私は見つめた。
フードをかぶっていたから気づかなかったけど、黒い髪に赤い瞳の男の子。
目鼻立ちもくっきりしていて、歳は私よりもいくつか上みたい。
着ているものも、うちの使用人たちのような簡素な布の服ではない。
しっかりと刺繍が施された生地もそうだけど、つるつるとしたその生地は一般市民が買えるようなものではないわね。
「たぶん、問題はないかと」
「たぶんって、すごく血が出ているじゃないか」
「やめて。見ないようにしているんだから」
そう、恐ろしいほどの痛みはある。
立ち上がれるかと言われれば、立ち上がれないし、歩けもしない。
だけど傷口を見てしまえば、もっと痛みが増すことなんて分かっている。
だからあえて考えないようにしていたのに。
「見ないようにって……。手当しなきゃダメだよ」
「そうかもしれないけど、今はどうしようも出来ないでしょ。家に帰らなきゃ」
「俺のせいだ」
今にも泣き出しそうなその顔。
貴族の子って、もっと偉ぶっていて感じ悪いって思っていたのに。
この子はちゃんと、自分が悪いだなんて表現できるんだ。
偏見かもしれないけど、なんかすごいな。
今まで見てきた人たちとは違うみたい。
「うちに行こう! すぐに手当させるよ。本当にごめん。こんなことになるなんて」
「ねえ一個聞いてもいい?」
「ん? どうしたの?」
「なんであなたは地下にいたの? 普通なら、あなたみたいな人がいる場所じゃないはずよ」
私はふと疑問に思っていたことを口に出す。
確かに地下へ続く道は、清掃のために開いていた。
だから入れないことはない。
だけど誰も好き好んであんな薄暗く、臭い場所になどは入りたがる人などいない。
でももし、何かの手違いであそこから落ちて迷い込んでしまっていたのなら、うちの責任になったりするのかしら。
それこそお父様にバレたら、食事抜きぐらいじゃ済まされないし。
「地下がたまたま開いてて……」
バツが悪そうに、彼は私から視線をそらす。
「落ちたの?」
「……そうじゃなくて。昨日、父さんと喧嘩して……」
「入ったの?」
「俺が強いって証明したくて」
「は? 父親と喧嘩して、自分の実力を証明するために、ねずみに挑んだってこと?」
「本当にごめん。こんなことになるなんて思わなかったんだ。父さんが俺はまだまだ弱いから騎士団になんて入れられないって言うから、どうしても実力を示したくて」
「馬鹿じゃないの⁉」
貴族相手に言ってはいけない言葉だとは思いつつも、感情と共にそんな言葉が口から洩れてしまっていた。




