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白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。  作者: 美杉。(美杉日和。)6/27節約令嬢発売中


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056 逃げ道

 たくさんの足音と、光る瞳。

 振り返らなくとも、自分たちを追ってきているということは容易に分かる。


 分かるからこそ、もう逃げ切るしかない。

 あんなにたくさんの群れでは、薬玉だって役に立たないはずだ。


 捕まったら、きっと怪我では済まないだろう。

 もっと悲惨な運命が待っているだけ。


 なんでこの子を助けたのだろうと後悔してみても、きっと同じ場に立ったら同じ行動をしていたのだろうから、考えても意味はないか。


 薄っすらと目の前に、地上へ続く灯りの差し込みが見える。

 

「あの縄はしごさえ登れば、外よ!」


 私は指さしながら、大きな声をかける。

 手を引かれたその子は、大きく頷いた。


 あと少し、もう少し。

 しかし目の前に来たその時、ふといろんなことが頭をよぎる。


 振り返れば、ねずみたちとの距離はさほどない。

 縄はしごは地上まで数十段。

 登り切るには、慣れていても数分かかる。


「ダメだ。間に合わない」


 そう、間に合わない。

 二人登り切る前に、きっと奴らが足元に届く。

 そうなってしまえば、このはしごすら危うい。


「先に登って」


 それしか考えられなかった。

 少なくとも、私よりも慣れていないこの子が昇る方が時間がかかるだろう。

 私が先に登ってしまえば、この子は確実に奴らの餌食だ。


 それでは助けた意味がない。

 私がここに残るしかないわね……。


「でも!」

「いいからとっとと登って! 私だって死にたくないの」


 私の圧に押されたのか、言いかけた言葉を飲み込むと、その子は縄はしごを登り出す。

 半分くらい登りかけた時、ねずみたちはすぐ目の前まで到達した。


 怖い。こんなに近くまで来られたことなどなかった。

 ねずみと呼ぶにはその体は大きく、爪も尻尾も鋭い。

 大きな個体では、私の腰の位置くらいまであるものもいた。


 だけど薬玉はあと一個。

 ギリギリまで引き付けないと。


 迫りくるねずみたちの手が届く瞬間、私は自分の口元を押さえながら薬玉を足元近くに落とす。

 すると音と匂いでねずみたちは後退していく。


 私は落としたその瞬間から、縄はしごに手をかけ勢いよく登り始めた。

 先に登った子は出口に到着し、私に手を差し伸べながらこちらを心配そうに見ている。


 急がなきゃ。

 興奮状態のねずみたちには、いくら薬玉といえど効果は薄い。

 きっと数分ももたないはずだ。


 焦り揺れるはしごを必死に登る。

 あと数段というところで、はしごが揺れた。


 私は思わず、下を見る。

 数分ももたずに、大きな個体のねずみが器用にはしごを登り始めていた。


「ああ……」


 気が緩んだわけでも、怯んだわけでもない。

 だけど焦れば焦るほど、上手く縄はしごは登れない。


 あと一段。

 振り向かなければいいと分かっていても、私は下を見てしまった。

 その瞬間、すぐ真下にいたねずみと視線が合う。


 ねずみは鋭いその爪で、私の足を掴んだ。


 どう形容していいものだろうか。

 痛いというよりも、熱いという感覚が足を駆け抜ける。

 

 熱せられた鉄板にでも足を打ち付けたようなその痛みに、短い悲鳴を私は上げた。


 そして無理やり足を上げれば、その痛みはさらに増す。

 上がれない、もう、上がれないよ。


 泣き出しそうになりながらも、次の縄を掴む。

 すると私の頭の上を、光る何かが落ちて行った。


「ぎゃん」


 短いねずみの悲鳴。

 振り返れば。ねずみのちょうど眉間らへんに長剣が刺さっている。


 剣? どうして……。


「今だ、早く!」


 おそらくこの子の持っていた剣だ。

 剣が刺さり絶命したねずみを巻き込み、その下にいたねずみたちが落ちていく音がする。


「でも剣が」

「そんなのいいから、早く」


 私はそれ以上振り返ることはせず、上から伸ばされるこの子の手を掴んだ。 


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