049 いつか返せる日まで
小さなものはハンカチから髪飾り、中くらいのものにはブランケットやストールまで。
また既製品とは思えないようなドレスやそれに合わせた小物たち。
本当に嫁入り道具かと思うくらいのたくさんのものたちが贈り物の中には入っていた。
しかもそのどれもが、おそらく貴族が使う中でも高級な類のものなのだろう。
生地などの触り心地が、この男爵家にあるものとはまったく違う。
本来ならばこういったものは、嫁側が持参するか、夫側が嫁となる者に用意してくれるのかもしれない。
この殺風景で、よほど貴族の部屋とは思えないココにはこんなものなど一つもないけど。
「すごいですね! これだけでいくらするんでしょう」
目を輝かせるミーアに、私は一人頭を抱えた。
まさにその通りだわ。
これだけで一体、いくらするのだろう。
少なくとも、私が一年あの商会で休まず働いたってこの半分も絶対に買えはしない。
普通の貴族の感覚ならさすが公爵家と思うかもしれないけど、こっちはただの平民なのよ。
ただでさえ、何にもしていないのにこんなにもらってしまってどう返せばいいのかしら。
「いくらするか考えたくもないわね。一体、あの方は何を考えているのかしら」
「これはどう頑張っても好意だと思いますけどね」
「でも仮にも私は結婚しているのよ? それなのにこんな風に好意を示すことなんてあるかしら」
「アンリエッタ様の境遇を知っていらっしゃるとか?」
ミーアの言葉に、ふと考える。
私が白い結婚だということを彼が知っているとしてだ。
それでもこうやって好意を示したところで、どうなるというのかしら。
それはきっとブレイズだって分かっているはず。
だったらむしろ同情と考える方がいいんじゃないかしら。
「あー、ドレス借り物とか言っちゃったし?」
「え、それ言っちゃったんですか⁉」
「だってほら、なんか勢いで……」
あの時のブレイズの顔、かなり驚いていたものね。
しかもそのあと、怪我をして倒れたなんて言われたら、きっと虐げられた可哀そうな平民のお嫁さんとか思ったのかも。
そう考えると、第一印象は最悪だったけどいい人なのかもしれないわね。
もっとも、加減を知らないあたりが困ったものだけど。
「貴族の方たちにとったら、きっとすごく不幸な人だと思われたかもしれませんよ」
ミーアの言葉に私は頷いた。
きっとそうね。貴族にしたら、きっと考えられないのかも。
もっともこれが普通すぎるって私たちの考えも、きっとダメなんだろうけど。
虐げられるのに慣れたって、いいことなんて一つもないのだから。
「アンリエッタ様、これはなんでしょう?」
残りの荷物を片づけていた侍女が、小さな箱からガラス瓶に入ったものを取り出し、私の元へ持ってきた。
丸い蓋の付いた瓶の中には、ピンク色の乾燥させたバラの花がいくつも入っている。
「これ!」
瓶の蓋を開けると、フルーティな甘酸っぱい香りが広がった。
「綺麗ですね。お茶か何かですか?」
「ええ。アンジェラの花だわ」
これだけで金貨一枚。
私が死ぬ前に手に入れられなかったものだ。
これがあの時あったら……。
「顔色が悪そうですよ? もうほとんど荷物も開け終わりましたし、そろそろ休まれてはどうでしょう」
そう言いながら私を心配そうにのぞき込むミーアの顔に、意識を浮上させた。
過去を嘆いても仕方ないし、このお礼もきちんと別ですればいいわね。
どちらにしてもまだ蕾の苗たちよりも、これが先に手元に入っただけいいとしなきゃ。
まだバラ病が発生するのは先の話だけど、用意しておくのに越したことなはいからね。
「ええ、そうするわ。少し調子が良くなったら、庭に苗を植え替えたいの。手伝ってね」
「もちろんです。明日にでも肥料などをどこかで買い付けてきますね」
「そうしてくれると助かるわ。あと、地下で使う薬玉の製造元へも行ってきて欲しいの」
すっかり忘れていたけど、あれの取引を父を介さずにやらないと、値段吊り上げちゃったのバレちゃうからね。
「ああ、ではそっちも行ってきます」
「明日手紙を用意するからそれでお願い」
「分かりましたから、アンリエッタ様は早く寝て下さい」
ミーアは私からアンジェラの花の瓶を取り上げると、子どものように布団をしっかり首まで布団をかけ、ぽんぽんと寝かしつける様に優しくたたき出す。
そんな彼女に苦笑しながらも、私は眠りについた。




