048 好意か打算か
「なんだかすごかったですね。初めてお医者さんの診察を見ました」
「そうね……」
やや興奮気味に、ミーアはビランドが置いていった痛み止めたちを片づけている。
しかしそんなミーアの言葉でさえ、私はどこか上の空だ。
どうしてブレイズが私に医師を派遣してくれたのだろうか。
きっかけは、なんとなく分かる。
ニカの屋敷より遣いが来た時に、私が怪我をして動けないことをミーアから謝っておいてもらったのだ。
おそらくそれが、彼の耳にも入ったのだろう。
だとしても、こんなお金のかかることを、いくら薬玉のお礼が足りないと思っていたってするかしら。
しかもこの男爵家への建て前上、わざわざ商会からの派遣だなんて偽ってまでよ。
何の得にもならないじゃない。
私が深く聞かなかったら、お医者様だって答えなかったはずだし。
何だろう。全然ブレイズの考えが分からないわ。
「はぁ」
思わず大きなため息をもらせば、心配したように部屋の片づけをしていたミーアが振り返る。
「初めての診察で疲れてしまったようですね」
「かもしれないわね」
「お薬を飲んで、少し休まれますか?」
「そうね。それがいいかも……」
と言いかけて、またドアが勢いよく開く。
デジャブーかしら、これ。
今さっきも同じ光景を見たわよね。
先ほどと同じ侍女が部屋の中へなだれ込んでくる。
それを見たミーアの顔が再び引きつっていた。
何か劇でも見ている気分ね。
「すみません。アンリエッタ様!」
「だーかーらー! アンリエッタ様は静養中だと何回言えば分かるの。ドアは静かに。大きな声も出さない!」
そういうミーアも先ほどと同じように大きな声を張り上げている。
「すみません、すみません。ですが、また」
「また⁉ 今度はなんだって言うの?」
もう何が起きても驚かないとは思いつつも、結局彼……ブレイズの行動に驚かされることになった。
なぜなら商会名義で、見たコトもないようなモノたちがたくさん私の部屋に運び込まれてきたからだ。
小さくかわいいラッピングのものから、家具たちまで。
軽い引っ越しくらいの荷物の量だろうか。
それにしたって、ここへ嫁いできた時すら荷物など大きなカバン一つ分くらいだったと言うのに。
「なんなの、これ」
「商会からのお届けものです!」
荷物を運び終えた作業員が、満足げに私にそう告げた。
ベッドと簡素なテーブルとイス、それに姿鏡しかなかった部屋が運び込まれた荷物で半分ほど埋まってしまっている。
「うちの商会から? ダントレット商会で間違いない?」
「ハイ! 間違いありません。上の者からそう伺っています」
「そう言うように~ではなくて?」
「え、あ、いや。違います! ちゃんと商会からデス」
作業員はややその目を泳がせたものの、素直に答えることはなかった。
誰がどう見たって、今まで何も送って来なかった父がこんなものを用意すると思わないでしょうに。
益々分からなくなってくるから、やめて欲しい。
他人から無償で好意を向けられたことなんて、ほどんとない。
だからこれが純粋な好意なのか、裏があるのか、それともただの同情なのか。
私には見分けがつかないから。
「ありがとう。送り主様にも、くれぐれもよろしく言っておいて」
「はい、承知いたしました」
作業員たちが部屋を出ると、どこまでも大きなため息をついた。
「これどうしますか?」
ミーアともう一人の侍女が、運び込まれたたくさんの荷物を前に目を輝かせている。
本音を言えば、もう薬を飲んで寝てしまいたい。
だけど二人ではないけど、中身を確認しないと寝付けそうにはなかった。




