041 一人ホクホクと
「あ、あと。植物の生育や、モンスターたちの隠れる場所を少なくするためにも街道の木々の剪定もきちんとした方がいいですよ」
「貴女はとても博学なのだな」
「うちで取り扱った情報だけですわ」
別に勉強熱心だったってわけでもないからね。
適度に有益な情報を流して、信頼関係を築いていかないと。
何せ、公爵家の人と仲良くなるなんて普通ではありえないのだから。
「いろいろな情報、感謝する。この前の時もそうだが、どうお礼をしていいものか」
考え込むブレイズを見てふと思う。
え、このお菓子っていうかお茶会がお礼じゃないのかな。
私はそのつもりで来たんだけど。
「いえ、この美味しいお菓子たちで十分すぎるぐらいですわ」
「え?」
「え?」
なんでそこで『え』ってニカに言われなきゃいけないの。
そしてなんとも不憫そうな人を見る目で見ないでよ。
こっちは平民だっていうの。
何度説明させるのかしら。
「えっと……それならお土産に包んでもらいます?」
「え、いいんですか⁉」
ニカの提案に、私はブレイズを見た。
彼のおうちのことなのに、そんな勝手に提案しちゃって大丈夫かな。
でも本当に美味しいんだもの。
ミーアたちも絶対によろこぶと思うのよね。
分かってるわ。意地汚いって目で見てるでしょう。
だけどこの先、こんな美味しいお菓子なんて食べさせてあげられるか分からないんだし。いいじゃないよぅ。
「……すぐに手配しよう。だが、そんなものでいいのか?」
「だってこんなに美味しいものなんて、初めて食べましたし。むしろお礼としてもらい過ぎではないかと思うんですよ」
薬玉の利益もあるし。お土産までもらえたなんて、最高よね。
あー、でももし欲張るなら一つだけお願いしたいことがあるわ。
「ただもし……」
「ん?」
「お礼が払い過ぎだと思われないのでしたら、アンジェラというの花の種か苗が欲しくて。どこかで手にいれることなどできれば教えていただきたいのですが」
お金を稼ぐこと以上に大切なこと。
私たちに襲いかかるあのバラ病だ。
隣国でこの花から作ったお茶がとてもバラ病には効果があることが判明した。
だけど輸入のコストなどがとても高く、その価格は金貨一枚。
あの病にかかって生き延びれたのは、ほとんどが貴族たちだけだった。
まだあの病が発症するまでには時間がある。
今から屋敷の庭とかでアンジェラを育てられたら、もっといろんな人にも分けることができるはずだわ。
私もミーアも死なずにすむ……。
初めはお金を貯めてその時まで待とうかと思ったけど、死に戻った今の状況がいろいろと変化しすぎてしまっている。
予定通りにバラ病が起こるかどうかもわからない。
それなら早くから準備するに越したことはないわ。
「それなら確かうちの庭にありますよ?」
「え、あるんですか!」
まさか国内で栽培されてるなんて思ってもみなかったわ。
あんまりニカのことは好きではないけど、なんとしても種か株を譲ってもらいたい。
早く植えるにこしたことはないからね。
「ほんの少しでいいので、譲ってもらうことは出来ないですか?」
顎の下で手を組み合わせお願いする私に、なぜかニカは後退する。
「え、ああ。別に全然かまわないですが、あんなんどうするんですか?」
「えっと、あの花のお茶が体にいいというか、病気を治す作用があるみたいで」
「病気?」
「あー、はい。んと、風邪とか」
バラ病がまだ流行ってもないのに、何言っちゃってるの私。
ダメでしょう。二人が不審な目で見てるじゃない。
「民間療法なんですよ。うちの侍女たちが教えてくれて。風邪引いた時用に庭で育てて増やしたいなと」
「医者にはかからないのか?」
「医者? ええ、はい」
そっか。普通なら医者にかかるのよね。
前世だって一回も医者に診てもらったことはなかったなぁ。
そもそもバラ病だって、治療法が分かってからは医者にかかる人はいなかった気もするけど。
「ニカ……」
「あ、はい。すぐに男爵家へ届けさせます」
何か二人は無言のまま目で会話をしていたけど、私にはその内容がまったく分からなかった。
だけど当初よりも話が進んだことで、一人ホクホクしながら公爵家の馬車で帰路についた。




