039 温かな手
どういう状況なの、これ。
ここにいろってことなんだろうけど。
手とか、手とか、手とか……。
男の人と手を繋いだのなんて人生初なんですけど。
そもそも私、これでも一応既婚者なのよ。
いいのかな。
「どうせ分かり切った報告だ。貴女が席を立つことはない」
そう言ったブレイズの顔はどこまでも優しく、恥ずかしくて顔を覆いたくなるほどだった。
「で、ニカ報告を」
「あ、はい。えっと……街道にまたモンスターが現れるようになったのと報告が上がりました。前回同様小型のモノだそうですが、最近頻回しており騎士団の派遣を」
街道沿いに小型モンスターか。
確か前の時にもそんな話があったわね。
馬車や積み荷が襲われたって言ってたっけ。
あの時うちの荷物も一度やられて、父が激怒していたのを覚えてるわ。
まだうちの荷物がやられたって話は聞かないから、もう少しあとかな。
ああ、でもそれならちょうどいいものがあるわ。
「幾度討伐しても、こうも頻回だと頭が痛くなるな」
「それならうってつけのものがありますよ?」
「なに⁉」
ちょうど売り込みたかったから、タイミングバッチリね。
私は自分のバッグから、また薬玉を取り出した。
「これはあの時のか」
「はいそうです。実はこれ、灰色ネズミ以外にも有効なんです」
そう、これが他のモンスターにも有効だと分かったのは偶然だった。
前世の時に、うちの積み荷が襲われた時、使用人の一人が持っていたこれを投げつけたことによるのだ。
投げた積み荷の馬車だけは助かり、他の馬車はモンスターに襲われ逃げることが出来なかった。
あの時は結構な損失だったとはいえ、あとからこの薬玉の話を聞いた父がその分の負債を取り戻せたほど稼いだのだ。
「この中に入っている薬剤が小型のモンスターには嫌がられるようで。殺傷能力はないものの、馬車などが襲われた時に投げれば逃げることは可能です」
「でもそれじゃあ、一時的なもんじゃないか」
一時的でもなんでも、逃げられたらいいだけの話でしょうに、ニカは私の提案に突っかかって来る。
「一時的でも離脱できれば、いくらかは騎士団の仕事は減るかと?」
「まぁそれは確かに……。でも高いんじゃ?」
「今ならこちらお値段は銅貨五枚で」
「五枚かぁ」
銅貨五枚は平民が外食のランチで使う程度の値段だ。
とはいっても、父が言った値段よりは吹っ掛けている。
だってそうしないと私の取り分がないんですもの。
なんとしても、離婚の前にお金を貯めなきゃいけないのよね。
こればっかりはぼったくりだけど仕方ないわ。
「その値段なら貴族の馬車や商人の積み荷などに配備してもらっても安かろう」
「ですよね」
さすがブレイズ。ニカよりも話が分かってるじゃない。
「いくつくらい納品できそうだ」
「お時間さえいただければ、いくつでも可能かと」
「そうか。それなら上にその話を出しておこう」
「ありがとうございます。あ、そうだ。この前の下水掃除の契約もそうですが、全て私名義でお願いします」
ココが重要なのよね。
契約内容を父に知られたら大変だわ。
だいたいこの薬玉の活用方法すらあの人はまだ知らないんだから。
「ああ、わかった。そうしよう」
「一時的にはそれで逃げてもらうとして、根本的な解決はどうしますか騎士団長」
「そうだなぁ」
「ん-。根本的になるかはあれですが、やりようはありますよ」
私の言葉に、二人は食い入るようにこちらを見ていた。




