037 初めてのお茶会➁
「大丈夫ですか?」
さすがにむせ込んだ私に、ブレイズは慌てて立ち上がろうとする。
しかし私は反対の手でそれを制止した。
いろんな意味で恥ずかしいからやめてぇ。
もっとも、口いっぱいに頬張った自分のせいなんだけど。
「だ、大丈夫です。いきなりそんなことを言われたのでビックリしただけで」
「そんなこと?」
あ。
そこまで言われてふと気づく。
彼が言ったのは、服装じゃない。
やだ、何を勘違いしてるの私。
ちょっと馬鹿すぎて恥ずかしいんだけど。
だって……綺麗だなんて初めて言われたんだもの。
自分のコトかって勘違いしちゃったし。
「ああ、服ですよね、服。これ借り物なんです」
「借り物?」
私の言葉にブレイズは眉をひそめた。
あれ。私、また変なこと言っちゃった感じ?
なんか墓穴掘りまくってる気がするんだけど。
「貴女の服ではないんですか?」
「えーあー。そうですね。私は貴族ではありませんし」
もういいや。
今さら取り繕ってもどうしようもないし。
別に私の扱いなんて今に始まったことでもないんだし、大丈夫でしょう。
「ですが貴女はウィドール家に嫁いだんですよね?」
「ええ。一応は?」
「一応って」
「所詮、契約結婚のようなものですし。貴族ですとそういうのも多いんですよね」
「ですが……」
私の言葉に、ブレイズは何か考えこんでいた。
貴族間の結婚って、親同士が決めるって聞いたことがあるんだけど。
今の時代はそうじゃないのかしら。
平民でも裕福な家になればなるほど、親が結婚相手を決めるっていうのが普通だと思っていたわ。
「一つお聞きしても良いですか?」
「ええ。どうぞ?」
安定にブレイズの眉間にはシワが寄ったままだ。
そしてややあらたまったように、口を開く。
「結婚は貴女が望んだものではないと分かりました。つまりは愛もないと?」
「まぁ、そうなりますね」
「かの男爵の話はよく聞いたことがあります。とある子爵令嬢に入れあげて、本来ならばその令嬢と結婚するはずだったと」
「ああ、みたいですね」
まさかうちの屋敷の別邸にいますとは言えないけど。
貴族の間でも、有名な話だったのね。
この人は、そういう話には興味なさそうだったのに。
なんか意外だわ。人は見かけで判断してはダメね。
「ではその女性が今でも自分の夫の元にいたとしても、何ら問題はないのですか?」
どこかとげのある言い方だった。
この言い方だと、マリアンヌが悪いみたいじゃない。
悪いのはダミアンであって、彼女ではない。
確かに愛人という立場は世間的にはダメなのは分かるけど。
私にとっては、マリアンヌが悪だとは一度だって思ったことないもの。
「問題があるとすれば、それは囲っている夫にでしょうか。ですが元よりこの結婚は契約的なものです。水面下で何が起きたとしても、こちらを尊重してもらえるのでしたら、本来は何も問題はありません」
そう。
仮面夫婦であっても、お互いが尊重さえできれば、もう少し私たちは上手くやれたのかもしれない。
今になってはすべて引き返すことも出来ないし、しようとすら思わないのだけどね。
私の返答に、ブレイズはただ沈黙した。




