036 初めてのお茶会①
門から屋敷までの距離で、その家の広さが分かるという。
先ほど門をくぐってからどれくらい経過しただろうか。
もはや軽く森が一つ入ってしまいそうなほど、屋敷までの道のりは遠い。
しかし森というにはあまりにもその道も周りの木々たちも丁寧に整備されていた。
そして屋敷の前に馬車が横付けされ、扉が開くとそこには正装に身を包んだあの騎士団長がいた。
「ようこそ、我がバンフィールド公爵家へ」
「お招きありがとうございます、ブレイズ様」
差し出された彼の手を取り、ステップを降りる。
そしてエスコートされるままに中庭を抜け、東屋に用意された席に私は座った。
テーブルにはすでにたくさんの、見たコトもないお茶菓子たちが並んでいる。
ケーキとクッキーまでは分かる。
だけど、丸いカラフルなお菓子とかトンガリ三角のサクサクしてそうなやつとか。
さすが公爵家ということなんだけど、困ったわ。
食べ方とか全然分からないし。
アンリエッタから昼間のお茶会はお庭でやるとは聞いていたから、なんとなくは分かっていたけど。
想像以上だわ。
「この前はすまなかった。うちの部下たちが貴女に不快な思いをさせてしまって」
「いえ。いきなりあの場で私のような者がしゃしゃり出てくれば、誰だって不快に思われると思います」
「いや、むしろ貴女のおかげで助かったのは事実だ」
対面に座ったブレイズは座ったまま私に頭を下げた。
本来なら身分が下の、しかも元平民でしかない私になんか頭を下げるものではないのだと思うけど。
「口に合うかどうかわからないが、うちの料理人が作ったんだ」
「ありがとうございます」
とりあえずフォークとナイフで食べればそれっぽく見えるわよね。
だって一回目の人生でだって、こんな高級お菓子見たこともないし。
下品であっても大目に見てとしか言いようがないわ。
「気にしないで好きに食べてくれればいい。ここには俺と貴女しかいないのだから」
見透かされたようにそうブレイズは言ったものの、特にマナーについて言いたそうではなかった。
むしろ視線を合わせることなく、自分はゆっくり紅茶を飲んでいる。
「ありがとうございます」
貴族として生きていくとか考えたことはなかったけど、マナーとかキチンと習わなきゃダメね。
屋敷にはいいお手本さんがいることだし、頑張らないとね。
さて、でも今は目の前のお菓子をいただいちゃいましょう。
せっかく作ってくれたのに残すのは申し訳ないものね。
私は一番気になっていた丸いピンクのお菓子に手をつけた。
手で~とはいかないから、ちゃんとフォークとナイフでだけど。
サクっと切れたかと思うと、真ん中にはクリームなのか何か入っている。
お菓子のサンドイッチみたいな感じなのかしら。
見た目も可愛いし、色がすごいわよね。
どうやったらこんな色のお菓子が出来るのかしら。
一度ブレイズの顔を見たあと、やはり私の様子を気にすることのない感じに、私はそのままお菓子を口に入れた。
サクっとした食感のあと、ほろほろとクッキーなのか周りの生地が口の中でほどけていく。
そしてそこらへんの安いお菓子とは違う重厚な甘みが口の中に広がっていった。
「おいしい」
そんな簡単な言葉で表していいものではないのだろうけど、初めて食べる味にそんな言葉しか出てはこなかった。
「それはよかった」
貧相な感想なのに、ブレイブはふわりと微笑んだ。
なんだかその笑みに、胸のどこかがソワソワし始める。
何とも言えないその感覚に、私は残っていたお菓子を一気に口に放り込んだ。
「今日の服装も綺麗ですね」
「んっ、ぶっ」
思わず吹き出しそうになり、口元を押さえる。
きゅ、急に何を言い出すのこの人は?
お世辞? お世辞よね、さすがに。
ああ、貴族ってこういう会話をするものなの?
やだ、分かんないし。
ちゃんとマリアンヌに聞いてくればよかった。




