029 いらない呼び出し
「アンリエッタ様、お手紙が……」
外出から数日後の昼下がり野午後、ミーアが部屋で休憩していた私のところにやってきた。
ミーアが淹れてくれた紅茶をゆっくり楽しんでいたが、どうやらそんな悠長なことをしている余裕はないみたい。
二通の手紙を持ったミーアの顔色はあまり良くない。
「どこから?」
「それが……あの、その」
ミーアの顔色が悪い原因は、どうやら手紙の送り主のせいらしい。
私を気遣いつつも、手紙を渡してもいいかどうか考えあぐねているようだった。
「もしかして、実家から?」
「……はい、一通は」
「そう」
なんとなく来るような予感はしていたけど、思ったよりも早いわね。
前回は子どもの催促以外は何の連絡もよこさなかったくせに。
「大丈夫ですか、アンリエッタ様。あの外出の際、何があったんです?」
「特にそこまでのことはなかったんだけど……」
私はミーアから二通の手紙を受け取った。
一通は、やはり父から。
私がお願いしたことへの返事と、一度商会に顔を出せと書かれている。
「すぐ来いってさ」
「えええ。何があったんです」
「さぁ? だけど帝都の地下清掃の仕事から、少し前に外されたらしいのよね」
「あー、その話なら別の使用人にも聞きました」
ミーアの話は、あの騎士団長が言っていたものとほぼ同じだった。
元々単価の高いうちを、城のお偉いさんが却下したらしい。
父は激怒して、二度とやってやるもんか~なんて言っていたようだか、あの清掃は単価もよく儲かっていたため大変だったらしい。
どうやらうちの商会の後釜に、そのお偉いさんの系列店が清掃に入ったようだけど、父は地下の情報を何一つ渡さなかった。
もちろん結果は、あの灰色ネズミが出たことを考えれば一目瞭然。
上手く清掃などできなかったのだろう。
ただこの呼び出しはそれではなく、私が勝手に再契約の話をまとめてきたことに対するお小言だろう。
「せっかく、地下清掃の再契約を上の人に話しておいてあげたのに」
「なのに呼び出しなんですか?」
「半永久的にうちにしてくれるなら、一割引しますって言ったからじゃない?」
「アンリエッタ様、さすがにそれは……」
「あー、うん」
あの人、値引きとか嫌いなのよね。
損して得取れとか、そういう概念が父には全くない。
基本的に仕事に関しては、傲慢そのもの。
「うちがやってやるんだから~だもんなぁ」
「ですね。むしろ後任ができなかったのなら、頭を下げてでも頼みに来いって感じじゃないですか?」
「確かに言えてるわ」
だけど城の役人が、平民のしかも悪名高いうちなんかに頭なんて下げるわけないじゃない。
少し考えたら分かると思うんだけど。
私は殴り書いたような父の筆跡を横目で見つつ、大きなため息をついた。
めんどくさい人。
仕事が戻ってきたのだから、どっちでもいいじゃない。
だいたい、今あそこの名義は私なのよ。
実質的な経営権はあの人が握ったままだけど。
あー、でも考えようによってはそうね。
コレもいい手かもしれない。
あの人が再び地下清掃の契約を結ぶ前に、私が直接結んでしまった方がいいわ。
それなら後々、その契約書も使えるはずだし。
でも問題は先にどうやって父を納得させるかね。




