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白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。  作者: 美杉。(美杉日和。)6/27節約令嬢発売中


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026 深夜の来訪者➁

「それはこの男爵家がってことですか?」


 こんな没落寸前の家が欲しかったなんて、意外ね。

 彼女みたいな美人なら、別にココに固執しなくても良さそうなものなのに。


「貴女、馬鹿なの?」

「は?」

「……話にならないわ。貴女もあの父親と同じ人種なのね」

「父を知っているのですか?」


 っていうか、あの父と同じ人種とか言われるのは、いくら私でも不愉快(ふゆかい)だわ。

 今の私の発言、彼女を怒らせるほど、どこかおかしかったかしら。


「ええ。貴女とダミアンの結婚の話が出た時に、辞めてもらうように交渉に行ったのよ!」

「へー。それはまた、すごいですね」

「何で他人事(たにんごと)なの?」

「いえ、そういうわけでは? ただ(アレ)抗議(こうぎ)しに行くなど無謀(むぼう)かと思いまして……」


 父は抗議なんかで動くような人間ではない。


 同情や情け、それに感傷といったものにも動かされることはない。

 その体に赤い血が流れていないと言われても、私は決して驚きもしないわ。


 あの人が自分の意見を曲げることなんて、絶対にないから。


 例え貴族に何か言われたとしても、裏から手を回すに決まっている。

 そして私はそんな光景を何度も見てきた。


「貴女、アタシを馬鹿にしてるの?」

「いえ。むしろその逆で、すごいなぁと感心していたところです」

「そういうのを馬鹿にしてるって言うのよ!」

「そうなのですか? 貴族になってから、まだ日が浅いものでどうぞご容赦ください」


 貴族って難しいわねぇ。

 これから貴族として生きて行かなきゃいけないのに、困ったものだわ。


「貴族とか、そういうコトじゃなくて……。あー、もういいわ。貴女と話してると論点がずれていく」

「そうですか? そんなつもりはなかったんですけど」

「貴女、変わってるって言われない?」

「どうでしょうか……。そういうコトを言い合うような友だちもいないので」


 ミーアたちは仲間で同志のような存在だけど、友だちというのは少し違うのよね。

 どこまでいっても、私たちの間には少し(へだ)たりがある。


 それはあくまでも、使用人としての心遣いなのだろうけど。


 考えたら、友だちっていなかったわね。

 今回はちゃんと作ってみようかしら。


 頑張ったらどうにかなりそうだし。

 きっと友だちがいた方が、人生楽しそうよね。


「……ホント、貴女も大概(たいがい)ね」

「はぁ、すみません?」


 でも今までの話からすると、彼女は私とダミアンとの結婚を阻止しようとしていた。


 あの父に抗議しに行くほどに。

 かといって、それはこの男爵家が欲しかったからの行動ではない。


「マリアンヌ様はもしかして、あの人……ダミアン様を愛しているのですか?」

「もしかしなくても、そうよ! 普通そうでしょう」


 マリアンヌは真っすぐに私を見据(みす)えていた。


 その瞳に嘘はない。


 ああ、そうか。

 だったら許せるはずないわね。


「すみません」

「どうして貴女が謝るの? やめてよ。惨めになるから」

「でも、すみません」

「だから!」


「全てうちの父のせいです」

「……知ってるわよ。アタシだって、貴女のせいではないことぐらい」


 知ってたんだ。

 私がこの結婚に賛成などしていないことを。

 でもだったらどうして、今日ここへ来たのかしら。


「知っているのなら、マリアンヌ様はどうしてここへ?」

「交渉しに来たのよ」

「交渉? それは一体、どういう意味ですか?」

「これ。貴女が一番欲しいものじゃなくて?」


 マリアンヌはそう言うと、持っていた黒い背表紙の重厚(じゅうこう)な本を私に掲げて見せる。


「それは?」

「この男爵家の帳簿(ちょうぼ)よ。探してたんじゃないの? わざわざ離れにまで偵察に来ていたみたいだし」


 バレていないと思っていたのに、あの年配の侍女には私が誰か分かっていたのね。


 この色の髪の人間は少ないから、なんとなくバレそうな気はしていたけど。

 顔合わせしていないから大丈夫だって安心していた。


 もう、ミーアの言うことを聞いておくんだったわ。


 失敗しちゃった。

 だけど、なぜマリアンヌは帳簿を私に見せてくるのかしら。


 その狙いはなに?


 こっちの手の内を明かすわけにもいなかいし……。

 困ったわね。


「……」

「別に隠さなくてもいいのよ。こっちだって、見返りを求めてのコトだから」

「見返り……ですか」

「ええ、そうよ」

「で、どうするの? 欲しいのよね」


 さて、どうしたものかしら。


 確かにあの帳簿は、私たちの今後にどうしても必要となるもの。

 でも果たして彼女が求めるものをこちらが出せるのか。


 そこが何とも言えないのよね……。


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