015 変な自信
翌々日には、ミーアが手配した三名の侍女が早々に屋敷へとやってきた。
そして私を含め、全員が同じ侍女のお仕着せで揃える。
髪を後ろで一つにしばり、ホワイトブリムまでお揃いにしてしまえば、ぱっと見誰が誰だか区別はつかない。
ましてや前から分かってはいたが、あの人たちは基本、私になど興味がない。
これでこの屋敷を自由に動き回っても、私が勝手に自分のお金で増やした使用人が動き回っているとしか思わないだろう。
お金の面でいえば結構なダメージだけど、今は仕方ないわね。
そのうちでも他に稼げるあてを探してお金を集めないとダメね。
バラ病の特効薬を仕入れるにしても、隣国からの取り寄せだからなぁ。
あれも結構かかるのよね。
考えると頭が痛くなるようなことばかりだけど、一つ一つ片づけていくしかないわ。
まずは一番攻略が簡単な夫からよね。
「みんな来てくれてありがとう。本当に助かるわ」
私が集められた侍女たちに挨拶すると、みんなも嬉しそうに微笑む。
元々彼女たちは父の元で一緒に働いてきた者たち。
しかもミーアがわざわざ自分で選んだ子たちだけあって、結束は固い。
「お嬢様、今日はどうされますか?」
「一応ね、これでも今は奥様なのよ、ミーア」
「ああ、すみません。癖でつい」
「まぁ、奥様らしいことを一つもしていないから仕方ないんだけどね」
「ですが……」
「そうね。今まで通り、アンリエッタって呼んでもらってもいいかしら」
なんだか奥様って感じでもないのよね、自分でも。
「もちろんです、アンリエッタ様」
「ありがとう」
自室での侍女たちのミーティングっていうのも、中々の状況ではあるけど。幸いこの屋敷は人がほぼいないから、聞き耳を立てられる心配もない。
義母にいたっては、足が痛いからと二階に上がって来ることもないし。
ある意味やりたい放題なのよね。
彼女たちには、ミーア同様一通りの説明はしてある。
私たちの目的、ここに呼ばれたわけ。そしてこの先のこと。
恐ろしいほど薄給に近い父などより、みんな私についた方が良いのも分かってる。
初めは勝算がなさそうではあったから、困惑する子もいたみたいだけど、現状商会の名義が私になっているということを聞くと、みんな安心したようだった。
未だに執務室で大きな顔をして、経営をしている父だけど、経営権はすでにないのよね。
しかも名義を私に移す際にも、なんの小細工もしなかった。
だって私が父を裏切るなんて絶対ないって自信があったからだと思う。
まさか頭の良い父だって、私が父に裏切られて死に戻ったなんて夢にも思わないでしょうね。
「とりあえず、当面は二人が屋敷内の掃除を。一人は他の使用人との接触を試みて。ミーアは屋敷内の部屋の把握をお願い。見取り図が欲しいわ」
「はい」
「私はその間に奥の離れの様子と、この男爵家の経理など調べられるとこを調べます」
ここまでお金のない原因。
それはきっと、この家のネックになっているはず。
そういう弱点は、あとからいくらでも活用出来るから情報は多ければ多い方がいいのよね。
「大丈夫ですか? アンリエッタ様は顔がバレていますし、あたしか誰かが偵察役をやった方が無難だと思うんですが」
「まぁ、フツーなら私がやるのはアウトでしょうけど。そんな奥まで入り込む気もないから大丈夫よ」
「ですが……」
「それに夫となったあの人は、私には興味ないし。この侍女の格好さえしていれば、私だって気づくこともないわ」
自分で言っておいて、それはそれでどうなのかとは思う。
ただ髪をしばって、侍女の格好をしているだけで見分けもつかない妻って何なのだろう。
普通ではありえない話よね。
でも気づかれない自信だけはあった。
「いいのですか? いくらなんでもそれは……」
「いいのよ、そっちの方が好都合だし。それに何とも思ってない人間に、どう思われれたって、私は傷つくこともないわ」
悩んで悲しかった過去の私は、あの川の底に捨ててきた。
だから大丈夫。
むしろこちらの目的のためになら、好都合よ。
「アンリエッタ様が良いのでしたら、あたしたちはそれでいいのですが」
ミーアはそう言いながら顔を曇らせた。
「私のことを案じてくれるのは、みんなだけよ。本当にありがとう。頑張りましょうね」
「アンリエッタ様……」
使用人という立場を差し置いても、私たちの境遇は良く似ている。
ここに集めた子たちは皆、父によって買われてきた子たちだから。
でもだからこそ、私たちは同じ目標に向かって進んで行ける。
望みは同じ。私たちは私たちの人生を、自分たちの手で取り戻すの。
「私たちの未来のために、頑張りましょう?」
「「はい」」
私たちはそれぞれ決めた持ち場に向かって歩き出した。




