013 新たな算段
「思ったより呼ばれるの早かったですね、アンリエッタお嬢様」
実家に急いで申請をし、ミーアの給与は私から支払うという形で、なんとかここへ来させる許可が下りたその昼過ぎ、小さな荷物を抱えたミーアが男爵家にやって来た。
父に細工してもらって、男爵家へ払う持参金の一部をこちらに回してもらっておいて正解だったわ。
いくら私に貯金があるからって、彼女たちの給与を払っていたらすぐ底をついてしまうわ。
涼やかなクリーム色の髪を一つにまとめ、私を見るなりニカッと笑うミーア。
その笑顔は大輪の夏の花が咲いたような印象を受ける。
この笑顔を見た瞬間、少しホッとしている自分がいた。
そして無意識に、盛大なため息がこぼれ落ちていく。
「ああミーア、本当に本当に待ってたわ」
ミーアを見た瞬間、今まで気を張っていた肩の力がやっと抜けてくる。
「あーあ。そのご様子だと、かなりやられちゃってますね。ちゃんとお嬢様との約束でしたから、このミーア、大至急参上いたしました」
「ありがとう、ミーア。でも今は、もう私はお嬢様ではないのよ?」
「あー、そうですね。すっかり忘れてました。今は奥様でしたね」
いつかのように、私たちは屋敷のエントランスで顔を見合わせながら笑い合う。
前回はずっとこの味方のない屋敷の中で一人だったのだけど。
ミーアがいるというだけで、こんなにもホッとできるものなのね。
あの時はこんな選択肢考えられなかったけど、やっぱり呼んで正解だったわ。
「そうそう一応、ね。詳しい話は夜にでも、私の部屋でしましょう。お父様の様子も聞きたいし。それよりもこんなところで油を売ってたら、また叱られるわ」
「あー、そういう系ですか」
「そう。そういう系なのよ」
私の一言で状況を理解したようにミーアが苦笑いをした。
彼女は昔からずっとそばにいてくれているから、一から伝えなくてもいいのが本当に楽。
持つべきものはなんとかっていうものね。
他にいる使用人の二人が敵というわけではないのだけど、何分人手が足りてないから前回もそうだけど接点がないのよね。
味方につけようにも、仕事量が多すぎちゃって。
「ああ、でも……そういう系より、かなりの最悪系だから注意してね」
「うわー。さすが旦那様が選んだ結婚先ですね。お察しですわ~」
「本当よ。まったくいつも通りすぎて、一人ではどうしようもなかったの。だからとにかくまずは環境整備が最優先。いろいろやることはあるけど、この汚さだけは耐えれなくて」
「了解しました~。さっさと片付けちゃいましょう」
「お願いね」
私とミーアは手分けして急ぎ掃除を始めた。
もちろん夜までかかっても屋敷の全てが綺麗になるなんてことはなく、あっという間に一日が過ぎていった。
◇ ◇ ◇
私の部屋に二人で戻る頃には、もう他の使用人たちは寝静まるような時間になっていた。
「いやー。あれだけ二人で掃除しても掃除しても全然綺麗にならないってすごいですね~。どんだけ年季入ってるんですか、汚さに」
「あはははは。汚さに年季って」
「だって本当ですよ~? 何年放置したら、あんなになるんですか?」
ミーアはそんな文句を言いながらも、部屋に戻って来るなり私のために紅茶を準備してくれていた。
ここに来て、誰かにこんな風に扱われたのは初めてかもしれない。
いつも何をするにも自分一人だけ。
元々実家でもそんなに使用人たちをはべらせていたわけではないから、ある程度は自分のことは自分でできるけどココではその比ではなかった。
仕事の範囲を超えているし……。
まぁ夫と義母からしたら、嫁に来た私はタダ働させてもいいだけで、使用人よりも使える存在なのかもしれないけど。
私からしたら冗談ではないわ。
ただご飯さえ与えておけば、何でも許されると思ったら大間違いよ。
「まぁ確かにね。ごめんねミーア。初日から大変だったでしょう」
「あははは、そうですね。コレはさすがに強烈でしたわ~。仮にも貴族のお屋敷なので、ココまで酷いとは思ってもみませんでしたよ」
「でしょうね。うちなんかより、汚くって」
「それもそうですが、屋敷自体もかなりな劣悪具合でびっくりしちゃいました。手入れされてないから、老朽化が半端ないですね」
ミーアは私の前にティーカップを置いたあと、自分の分も注いで向かい側へ座った。




