012 言いたいことは流し込んで
「働かない気ではなく、屋敷をより良くするためなんです」
「しかしこの屋敷を別に誰かに見せるわけでもない。お金がかかるぐらいならば、君だけで十分だと思うよ」
優しさを偽るダミアンに、イラっとするのは気のせいではないはずだ。
「ですが、これから社交界の時期なども始まるのではないですか?」
「ああ、そんなことは考えなくていい。元々、うちはそういうものとは無縁だ」
無縁だって、それはお金がなかったからでしょう。
せっかくお金が手に入ったのだから、また昔のような栄光を~とは思わないのかしらね。
ああでも、夜会だって愛人としか行かないつもりだから、家では出来ないか。
「無縁というのはつまり、行わないというのですか?」
「ああ、必要ない。だから君がこの屋敷を切り盛りすればいい。君はココの女主人になったのだろう。それが君の務めだ。それに君ならば上手く出来るって信じているよ」
だーかーらー。私は使用人ではないんだってば。
ドヤ顔で言ってるけど、それは全然優しさでもないんだからね。
信じなくていいから、手を貸すか金をかけて欲しいんだってば!
どうしてこんなにもわかり合えないものなのかしら。
なんか、同じ人間と会話していないみたい。
私は一体、ナニを相手にしてるの。
あの父も大概だったけど、ココも変わらないわね。
「ダミアン、あなたがそうやって甘やかすから付け上がるのよ」
ねーえー、今の話のどこに甘やかしがあったっていうの?
どこにもなかったわよね。
むしろ全部押し付けていただけじゃない。
同性なら、夫よりはもう少しわかり合えるかもしれないと思った時期もあったけど、所詮嫁・姑なのよね。
夫も義母も、私には一生わかり合える気がしないわ。
他も計画通りに進めていきたいし、やることはたくさんある。
だったら今は、多生のコトは目をつぶるしかない。
「でしたら、私から父にお願いして実家の侍女を連れて来てはダメでしょうか?」
「商家の侍女だなんて。そんなのをこの家に入れるのはダメよ。うちは由緒正しき男爵家なのよ!」
はいはい。
由緒正しいだけの、とーーっても汚いお屋敷だけどね。
ほこり臭いし汚いしボロボロだし、私がいろいろ限界なのよ。
由緒正しくったって、こうも汚いと私が無理なの。
あなたたちはこのオンボロ屋敷にずっといたから気にならないかもしれないけど、私は無理。
本当に無理。絶対に無理。
むしろ潰して一から建て直したいと思えるほど、無理なのよ。
あー、ここを乗っ取ったあかつきには、それもいいわね。
こんな汚い屋敷、もうどうしようもないもの。修繕するにしても限界超えてるわ。
「だが君の父親に頼むと、いろいろとうるさいだろ」
「そこは私がなんとかいたします」
「だが……」
「侍女のお給料は、私の貯金から充てますので男爵家にはご迷惑をおかけいたしません」
「そうか。まぁ、君がそこまで言うのならば仕方ないな」
「甘やかすつもりなの、ダミアン」
キっとした目で義母がまた私を睨みつける。
ホント、この人はそれしか言わないわね。
甘やかしじゃないって、どう説明したら理解してくれるのかしら。
「いえ母上。屋敷が綺麗なのも、母上の健康のためですよ」
さっきはいらないって言ったくせに。よく言うわ。
「だったら、嫁であるアンリエッタにやらせればいいじゃないの」
「間に合わないのなら仕方ないですよ。アンリエッタ自ら、自分が無能で、一人では認めたのです。そこまで言うのだから、優しい心で許してあげないと可哀想ですよ母上」
「アリガトウゴザイマス」
ダミアンは茶色のくせ髪をかき揚げながら、さも自分が優しく寛大な夫であるかを義母にこんこんと語りかけていた。
えっと、どこが優しく寛大なんですか? 頭おかしいのではないですか?
私がお金払うって言ったから、許可しただけでしょう。
それにまず人をこの屋敷に入れたくないなら、自分たちだって動けばいいじゃない。
働かない者は~なんでしょう?
だいたい、無能ってあなたに言われたくないわよ。何にもしないくせに。
本当に腹が立つわ。
前回、よく我慢したわよね。こんな人たちのために。
思わず素が出そうになるところを必死に、私はやや冷めた野菜くずしか入っていないスープと共に喉の奥へと流し込んだ。




