ダンジョン調査を依頼されたので潜ってみたら、そこは初心者御用達親切設計のダンジョンでした!?
俺は木下 達也。Bランクパーティー「TSUBASA」のアタッカー兼リーダーをしている。先日所属するギルドのマスターから指名依頼を受けた。
「TSUBASAにダンジョン調査を依頼したい」
そう言ってマスターが提示したダンジョンは、初心者御用達のE ランクダンジョンだった。都市部からはかなり離れた田舎にある洞窟型ダンジョンで、階層も浅く、ボスもDランクの攻略しやすいダンジョンだったはずだ。
「隠し扉でも見つかったんですか?」
「いや、ある日突然『改装中』の看板が出てな、入れなくなっていたんだ」
「はあ」
ダンジョンが改装するなど聞いたことがない。
「それが先日リニューアルオープンしたそうでな」
「なんですか、その新装開店みたいなノリは」
「コレを見ればわかる。そのダンジョン近辺に配布されたチラシだ」
「はあ……」
確かにそのチラシにはデカデカと赤い文字で『リニューアルオープン!』と書かれており、その下に『大人だけでなく子どもも楽しめる体験型学習施設併設。これであなたも立派な初心者冒険者!』と謳い文句まで添えられている。
「なんですか、この胡散臭いチラシは」
「最後まで読んだか? チラシの一番下だ」
言われて確認すると、一番下に但し書きがあった。
『当ダンジョンは環境配慮型となっております。SDGsに配慮し、クリーンなダンジョンを目指しております。そのため、入館料をいただきます。大人1名 800円(消費税込) 子ども1名 500円(消費税込)。なお、ダンジョン攻略費用として1階層につき500円を請求いたします』
── はあぁ? 入館料だと!?
「なんなんですか、このダンジョンは? 入館料が必要とかどこのテーマパークですか?」
するとギルドマスターは大きなため息をついて言った。
「実際テーマパークのノリだ。入口前にはご丁寧に門があってその隣に入場券売り場まであるらしい」
「はあ」
「それからそのチラシの裏を見ろ」
俺はチラシを裏返して目を丸くした。
ダンジョン1階は体験型施設? 各種スライムの生態展示、生息モンスターの展示と攻略法。魔石って何?(実物展示あり)、などなど。
「いや、確かにこれは初心者にはめちゃくちゃありがたいですが、これ、本当なんですか?」
「どうやらそれが本物らしい。しかもダンジョン入口前がきれいに整備されていてな、駐車場まであるのだ。それだけではない。地下一階からがダンジョンになっているそうだが、その入口にはレンタル装備も完備しているらしいのだ」
── 完璧じゃないか!? そんなダンジョンがあれば俺たちも苦労しなかっただろう。
「それで、俺たちの任務とは?」
「できればそのダンジョンを踏破してほしい。詳細な情報がほしい」
「わかりました。お受けします」
俺たちは車で移動し、近くの村で情報収集。一泊してダンジョンへと向かった。
「ねえ、ここって本当にダンジョンなの?」
治療師の彩香があきれた顔で見渡しながら声を出した。さもありなん。
整備された駐車場の周りには地元の産直品を売る店、軽食屋台、土産物屋など、数々の店が並んでいる。ダンジョン入口には入場門、その左右に案内所、換金所までが設置されている親切設計。
俺たちはチケットを購入し、入場門をくぐる。ダークエルフが、
「ようこそ初心者専用ダンジョンへ。それでは行ってらっしゃいませ」
と笑顔で扉を開けてくれた。中へ入ると通路には照明があり、進行方向に矢印が設置されている。斥候で、シーフのスキル持ちの健翔がギルドから支給された地図を確認している。矢印の通りに進むと『展示室』と書かれた部屋が見えてきた。
「旧ダンジョンの地図と変わらないね。以前はもっと暗くてジメジメした、いかにもな洞窟だったよ。きれいに整地されてはいるけれど、地形は変わっていないみたいだ」
展示室内にはまたもやダークエルフが一人いて、
「いらっしゃいませ。ようこそダンジョンへ。こちら1階は展示施設となっております。モンスターは展示品のみとなっておりますので、安心してご覧ください。体験コーナーでは無害のスライムに触ることもできます。どうぞお楽しみくださいませ」
「先へ進むにはどうすればいい?」
「初めてのお客様は順路通りにお進みください。素敵な冒険をお楽しみくださいませ」
俺たちは仕方なく順路通りに進んだ。展示施設は地下3階までのダンジョンの説明と案内になっており、実物展示には宝箱やその鍵なども展示されていた。なんと、罠もなく鍵さえ手に入れれば開けるらしい。
「この鍵、軽いな」
「それ、よくできたオモチャよ」
「おい、この宝箱もめちゃくちゃ軽いぞ」
カチャリ、と簡単に開く宝箱。開く時にポンとかわいい音までついていた。
「これ、プラスチックだね」
「……」
「なあ、どうなってるんだ? ここは?」
「僕に聞かれてもわかるわけないだろ」
本格的なダンジョンの手前で既に途方にくれる俺たちだった……。