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二章 10



今日は八月十六日だ。そして、今日は給料日である。

先輩が倒れたのが一昨日。

間島先輩は朝からずっとテンションが高く、足取りが軽かった。

相当給料日を待ち望んでいたのだろう。


そして給料日のお昼時、私は何故か今日もまた高坂さん神楽くんと昼食を共にしていた。

本当になんで?

昨日は麻生襲来というイレギュラーがあったから分かるよ。だけど今日は別に普通だった。

それなのになんでだ。

まあ嫌ってわけじゃないけど……。


因みに、今日も高坂さんは桐箱の幕の内弁当である。しかし昨日とは中身の趣向が違う。

昨日は茄子の煮浸しとローストビーフに代表されるように和洋折衷の様式であったが、今日は少し赤みの目立つ中華風のお弁当だった。しかも中には酢豚と麻婆茄子が入っている。

……うん、高坂さんよっぽど昨日ちゃんと酢豚食べられなかったのとナス盗られたの悔しかったんだね。


で、神楽くんはまたもやコンビニのご飯であり私もお弁当(残り物詰め合わせセット)だった。


「常盤さん、毎日手作りなんですか?偉いですね」

「いや、これ大体前の日の晩飯の残り物なので……偉いかと言われると……」

「偉いと思う。俺は弁当はもう諦めた」

「あはは。でも神楽くん、偶にはちゃんと栄養のあるもの食べないと駄目だよ?」

「わ、わかってる。家ではちゃんと食べてる」


いや、まあ気持ちはわかるんだけどね。

コンビニはどこにでもあるし商品の種類も豊富だし、多少高いとか栄養バランスがとかあってもついつい買っちゃうんだよなあ。

大衆消費社会の権化みたいなもんだもんな、コンビニって。


「……僕も作ってもらおうかな……」

「高坂さんのお母様って料理とかなさるんですか……!?」

「あ、いや、違いますよ。母さんじゃなくてお手伝いさんにってことです」


なんかもう、色々と住む世界が違うぜ……。

やっぱりお手伝いさんなるものが家に居るのね。

昨日に引き続いて言っておこうかな。

高坂さんの家は超お金持ちです。確か高坂さんのお父さんは大企業の社長さんかなんかだったはず。

第八特務課はお坊ちゃん育ちの集まりすぎるんじゃないか?


「手作りも温かみがあっておすすめですよ……。節約にもなりますし……。まあ高坂さんには関係ないことかもしれないですけど……」

「せつやく……」


そんな僕の辞書に節約なんて文字はないぜ!って顔されても困る。

こっちは毎月如何にして出費を抑えるかばかり考えてるんだから。


「常盤さん、お金に困ってるんですか?」

「いや……まあ、そんな明日の生活にも困るってほどではないですけど。実家がちょうど、今大変なので」

「常盤さんの実家?大変なんですか?大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ〜。そんな深刻な問題じゃないです。ただうち、結構大家族なので何かとお金が入り用なんです。私、七人兄弟の一番上なんです。凄いでしょう?」

「「七人!?」」


高坂さんと神楽くんの声がハモった。

やっぱり最初はびっくりするよね~。

これ、常盤めぐりの絶対滑らない話その一である。

この少子高齢化社会に於いては四、五人でもかなり多い部類であるのに、それが七人だ。

黒澤明ごっこが兄弟でできるんだよ、凄くない?


「それで、今年そのうち三人が受験なんです。二人大学で一人高校受験。受験ってめちゃくちゃお金かかるので、やっぱり今年はちゃんと節約しないとなんですよ」


私が言ったのは紛れもなく事実だ。

常盤めぐりの、私の兄弟には高校三年生の弟妹が二人、中学三年生の妹が一人居るのである。

そして、受験は金が掛かるというのも本当だ。

参考書代、受験料、入学金、入ってからの授業料……。それが三人分だ。

キツいなんてもんじゃない。マジでギリギリ。


「……常盤さん、本当に偉いですね。家族のためにそこまでできるなんて」


高坂さんが驚いたように目を見張ってそう言った。

それに神楽くんもうんうんと頷いている。


「偉い、っていうのとは違いますかね。これは私の我儘なんですよ。私、親に無理言って大学行かせてもらったので。絶対お金キツいって分かってたのに行かせてもらったんです。私は我儘言ったのに、下の子たちは駄目なんて自分勝手すぎるよなあって。だから偉いっていうより、自分の我儘ぶんです」


実際常盤めぐりはそう思っていた。

自分の我儘を通して、でも兄弟は駄目なんてそんな勝手なことはできないと。


確かに私も、常盤めぐりは偉いと思うよ。

でも、今は私が頑張らねばならないのだ。

常盤めぐりの、私の家族のために。


「いや、十分偉いと思う。なあ、流亥。……流亥?」

「……大学……だい、がく……そうだよね……負担、だよね……」


なんか、高坂さんが心ここにあらずで中空を見つめていた。

しかもうわごとのように何かを呟いているし……。

どうした?高坂さんの身に何があったんだ?


「高坂さん?大丈夫ですか?」

「……あ、は、はい。だ、大丈夫ですよ」


高坂さんは慌てたように手を振った。

本当に大丈夫?大学って聞こえたけどなんかあったのかな。

でも高坂さんってあれでしょ?飛び級で海外の大学を卒業したとかなんとかでしょ?改めて考えると凄いな……。


その後も高坂さんはなんだか上の空でお昼ご飯を食べ進めた。

私と神楽くんはそんな高坂さんの様子に首を傾げるばかりだったのであった。



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