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一章 23



昼を回って午後である。


今日の午後は三保瑛人と特訓だ、と先週から約束していたし朝にも確認した。

その事実通りに私は今謎の庭、もとい実技演習場にいる。言うまでもなく三保瑛人も一緒だ。

彼は白衣にビニール手袋、そしてゴーグルという重装備である。

その手にはジャラジャラと鍵が握られているし、脇には三つのアタッシュケースが抱えられている。


これから私、何されるんだ。怖いんだけど....。

なんかあれかな、人体改造でもされるのかな。

余りに私が血を使えなさすぎるから、いっそ身体丸ごと手を加えてしまおう的な。そんなわけないか。……ないよね?


「三保さん、そんな格好で暑くないですか?」

「暑い。暑いけど、今これを脱ぐわけにはいかん。……常盤、今から絶対に俺に近付くなよ。半径ニメートル以内には来るな」

「え?ああ、はい……」


私は取り敢えず三保瑛人から一歩距離をとった。


なになに。本当怖いよ。

ここまでなんの説明もなく来たから、これから何するのか全くわかんないのよ。

普通に特訓するのかなって思ってたけど、それにしては三保瑛人の様子がおかしい。


三保瑛人は地面に真っ白な布を敷いて、その上にアタッシュケースを下ろした。

その動作はゆっくりで、慎重で、ケースと地面の間の衝撃音が一切発生しないくらいに丁寧だった。いっそ恭しさすら感じられるほどに。

彼はアタッシュケースに鍵をさし、その中から取り出した箱にもまた別の鍵をさした。

そんな厳重な警備が解かれたのちに出てきたのは、血の入った一本の試験管。


まあ、だろうね。三保瑛人がこうまで丁重に扱うものなんて血くらいしかない。

でも、それにしたってちょっと大袈裟すぎやしないだろうか。

この前の適性確認の時の血は確かにアタッシュケースには入っていたけど、二重の守りもなかったし鍵も付いていなかった。


「常盤、今から俺の言うことをよく聞いて、絶対守れよ?良いな?絶対だぞ?絶対だからな?」

「わ、わかりました。わかりましたから」


三保瑛人の目が怖い。これはガチだ。逆らってはいけない人の目をしている。


「よし。……これはハーディングの血だ。カナダの希少系統。日本だと鞍田が近いが、ハーディングの血は威力が比喩抜きで桁違いだ。たった一滴で半径百メートルは吹っ飛ぶ爆発を起こせる。使う量が増えれば増えるほどその範囲は広くなるから、今でもカナダの最高戦力だな。世界的に見ても第一級戦略攻撃系統で、エッセン条約でもEN重要保護系統に当たる血だ。ハーディング家自体は今でも続いているんだが、病弱な血筋で__」


……話をよく聞けとは言われたけど、なんか眠くなってきた。

というか、これって本筋じゃないとこに話逸れてない?私にカナダの戦力の話とか、ハーディングさんちのお家事情とか必要ないでしょ。


「あの、それで私は何をすれば良いんですか?」

「あ、ああ。すまん、話が逸れた。要するにだな、このハーディングの血は物凄い強いんだ。でも、その強さに比例するように希少性が高い。日本じゃ、ローレルと赤薔会が二百ミリリットルずつくらいしか持ってないんじゃないか」

「はあ、そうなんですか」

「だから、絶対溢すんじゃないぞ。持つ時は絶対両手。特殊なガラスでできてるから落としたくらいじゃ割れんと思うが……。衝撃を与えたら何があるかわからん。蓋も特注だから無理やり開けようとするなよ。ここ押したら開くから。蓋は開けたままにしない。使う時だけ開けて、それ以外は絶対閉める。良いな?」

「いやいや、良くないですよ」


ゴーグル越しに真剣な瞳をする三保瑛人に向かって、私はぶんぶん首を横に振った。


いや、別に三保瑛人の言うことに逆らいたいのではない。

そういう話ではなくて、もっと根本的な問題だ。


「三保さんの口振りだと、私がこの血を使うみたいじゃないですか?」


そう、そこだよ。私が問題にしているのは。

三保瑛人が態々懇切丁寧にハーディングの血に関する情報を話すなんて、それじゃあまるで私がこれからその血を使うみたいではないか。

主要四系統でさえ未だ満足に扱えない私が、世界的にも貴重な希少系統を__


「みたいっていうか、使うんだよ。なんのために俺が態々ここまでしてると思ってる」


ええーー……。

やっぱり使うの?なんでよ。無理だよ。

三保瑛人は頭良いし、記憶力も良いはずでしょ?なのに私の先週の惨劇を忘れたのか?

どの『血の特異性』の系統も最低レベルの適性で、小指の先くらいの量の血しか動かせなかったことを。


あれかな、三保瑛人は私のこれまでの成長を過信しすぎているのかもしれない。

別の人との特訓をしている間に、私が物凄い急成長を遂げたと勘違いしているのかも。


「私、そんな凄い血使えないですよ。第一系統だってまだちゃんと使えないですし、そのハーディングの血?とやらだって……」

「だからこれを持ってきたんだろ。常盤の適性の幅は広いが、それが軒並み低いことは分かってる。でも、それは短所じゃない。長所だ。日本にある『血の特異性』に限ったってそれら全部の種類を扱える人間を、俺は今まで見たことがない」


三保瑛人はハーディングの血の入った試験管を一旦箱の中に戻した。そして他のアタッシュケースにも鍵を差し込んで開けていく。


「こうまで適性が広いなら海外の希少系統も使えるんじゃないかと踏んだんだ。日本の希少系統には少ないんだが、海外の希少系統には適性の高低に威力が左右されにくい血が一定数ある。そういう血は適性自体を持つ人間も少ないもんだが……」


三保瑛人は別のアタッシュケースから取り出した試験管を私に手渡した。


「開けて、『不二家のミルキー、一粒欲しい』って言ってみろ」

「はっ?」

「良いから」

「は、はあ……。ふ、『不二家のミルキー、一粒欲しい』?」


すると試験管の中の血がほんの一滴すうっと持ち上がって、私の目の前に浮上した。

それは一瞬ふるりと揺れると、次の瞬間形を変えた。

白地にピンクと水色の水玉が乗っかっているような模様の、キャンディの形をした何かに。


それは形を変えた瞬間に物理法則を思い出したようだ。

重力のままに落下してアスファルトとぶつかり、こっという詰まった音がする。


私は試験管の蓋を閉めてからしゃがんで、落下物を拾い上げた。

紙とビニールの中間のような手触りをしたそれは、小石みたいな固形物を内包している。

固形物の入った丸い箇所の両脇に耳みたいな取っ手が付いていた。

私は白地の包み紙を解いて中身を取り出し、それをほんのちょっとだけ舐めてみた。


「ミルキーだ……」


練乳みたいな甘ったるさが私の舌先を刺教した。

ママの味を思い出しはしなかったけど、これは明らかに不二家のミルキーキャンディである。


「トゥルナゴルの血も使えるのか。これなら本当に全部使えそうだな」

「はっ?えっ、どういうことですか?っていうか、これなんですか?今、私どうやって……」

「常盤の持ってる曲はトゥルナゴルの血だな。トルコの希少系統だ。それもさっきのハーディングの血と同じで強力だが、その分希少な血なんだ。しかもトゥルナゴルの血はそれ自体が貴重なだけじゃなくて、適性を持つ人間も極端なまでに少ない。まあ『口にした願いがなんでも叶う』なんて法外な能力じゃ、それも致し方なしって感じだがな」

「く、『口にした願いがなんでも叶う』……!?」


いやつっよ。そんなの物題のラスポスくらいしか持ってちゃ駄目でしょ。

こんな、たかだか一公務員が持っていて良い代物じゃない。


「なんでもって言っても、願い事の難易度が高ければ必要な血の量も増えるから無制限ってわけじゃないけどな。ただでさえCRなんだし」

「しーあーる……?」

「ああ、いやそれは気にしなくて良い。とにかく、今日はそういうただ使えるってだけで強い血を幾つか持ってきたから適性確認するぞ」

「えっ、あっ、しょ、承知しました!」


なるほど、と思った。

確かにこれだけ強力な血なら私みたいな適性激低人間でも形になる。

なんだか血の持つ特性に頼り切りで気が引けるけれど、出動が迫るこの時期に我儘は言っていられない。


「じゃ、ハーディングの血からな」

「はい!……あの、でもこれって一滴だけで半径百メートル吹っ飛ぶって……」

「一滴0.3ミリリットルの計算でそれだから、その二百分の一くらいで頼む」

「本気で言ってます?失敗したらどうするんですか」

「ローレルが吹っ飛ぶ」


そういうことじゃない。

そんなリスキーなことをして出動前に怪我したなんてことになったらどうするんだってことだ。

いや、確かにこの血を使えたら百人力なんてものじゃないけど……。


「うん、まあ俺も無理があるかなとは思ってたよ。だから、一応秘密兵器を持ってきてる」

「それを先に言ってくださいよ……」


本当にもっと早く言ってくれ。

このまま私が無謀にもトライしていたらどうするつもりだったんだ。


三保瑛人はアタッシュケースの中からジッパー付きのビニール袋を取り出した。それと同時にピペットも取り出す。


「常盤、腕出しとけ。左の方が良いと思う」

「腕ですか?」

「ああ。一応、適性確認はパッチテスト形式でもできるっちゃできるんだ。ただ下準備も大変だし時間もかかる割に確実性が低いのがなあ。ま、今回はしょうがない」

「どのくらいで結果出るんですか?」

「丸一日」

「えっ……あの、今日お風呂……」

「腕濡らさなきゃ入って良いよ」


できるかぁ?まあ無理難題ってわけじゃないが……。

でも、聞いちゃった手前入らないのもなあ。明日三保瑛人にお風呂入ってないんだって思われるのだし……。


「取り敢えずハーディングとザイファートの血だけな。それ以外は今日確認するぞ」

「ザイファートの血というのはどのような?」

「血で囲った内側と外側の空間を完全に遮断する。内部から外部、外部から内部、どちらの干渉も一切受け付けない空間を形成するんだ」


要するに、小学生の考えるような無敵バリアが作れるってことか?つ、強くない……?

なんか、さっきから出てくる血が全部漫画のボスキャラにしか許されない能力なんだけど……。


私がザイファートの血とやらの能力に唖然としていると、三保瑛人はパッチテストを貼りに私に付いた。

私は慌てて左腕の袖を捲る。


「ん、じゃあ明日のこの時間に俺に声かけてくれ」

「はい」

「次はヴァーゲンザイルの血にするか」


三保瑛人はパッチテストを貼り終えるとすぐに次の試験管を取り出した。


「他にどんな血が残ってるんですか?」

「動物を使役するサラザール、瞬間移動のヴァーゲンザイル、過去に時間を巻き戻すゲルレロの三つの血だ」


はは、もう乾いた笑いしか出ない。全部強すぎるって。

本当に『血の特異性』って凄いんだなあ……。


私は立て続けにその三つの血を使ってみた。


まず最初に瞬間移動のヴァーゲンザイルの血。

移動可能な対象物に予め血をかけておき、それと空間を入れ替える。基本的に移動距離が増えるほど必要な血の量も増えるらしい。私は目の前の小石と入れ替わっただけだったが。

ヴァーゲンザイルには適性あり、である。


次に時間を巻き戻すゲルレロの血。

三保瑛人に言われるがままにさっき生み出したミルキーを口に含みながら血を使ってみた。すると、口の中のキャンディがちょっと大きくなったではないか。大きくなった、というか元に戻ったということなのだろう。

ゲルレロにも適性あり、である。


そして最後に動物を使役できるサラザールの血。

これには一悶着あった。どうも血を使うと個人の適性に応じて様々な種類の動物の中から一匹が生み出されて、その動物を使役できるそうなのだけど……


「__ぎゃあぁ!ちょっ、なっ、うわ、こっち来ないで!!!」

「うるさい。虫一匹でそんな騒ぐな」

「なっ、そんな!酷いです……うわっ。ちょっと、なんでこの子追いかけてくるんですかぁ!?」


血から生み出されたのは一匹のコガネムシだったのだ。どうやら私の適性はコガネムシらしい。どういう意味だ……。


私はそのコガネムシに追い回されていた。

なんでか知らないけど、コガネムシくんは私の後ろをぴったりと付いてくるのだ。


「サラザールの血から生み出された動物は指示がない限り主人に付き従う特性を持つからな」

「冷静に解説してる場合ですか!ていうか動物って、昆虫もありなんですか!?」

「昆虫は無脊椎動物だろ」

「確かに……!」


そう言われるとぐうの音も出ない。

でも、動物って言われたら犬とか猫とかを思い浮かべるじゃない。まさか虫とは思わないじゃない。私、虫苦手なんだよぉ。


「これっ……!どうしたら良いんですか!?私一生コガネムシと一緒に暮らすんですか!?」

「指示出すか、血使うのやめたら良いんじゃないか?」

「た、確かに!わ、わかりました……!」


焦りすぎて指示内容が全く思い浮かんでこなかったので、私はサラザールの血を使うのをやめた。

コガネムシくんは霧のように散っていなくなってしまった。ひとまず安心だ。


私は追いかけっこに疲れて肩で息をする。

汗が尋常じゃないほど出ていた。

走ったのもそうだけど、虫が近くにいるという恐怖からくる冷や汗も多分に含まれているだろう。


「んー……一応全部適性はあるが……。サラザールはある意味適性ないな」


三保瑛人の言う通りだ。

確かに『血の特異性』の観点で見れば適性ありなのかもしれないが、私の気質という観点から見ると適性なしである。

というか、コガネムシを使役できたところで何になるのか。あの子を東京のど真ん中で生み出したとしても、雑踏に渡されるのがオチだろうとしか思えない。


「ヴァーゲンザイル、ゲルレロ、トゥルナゴル……三つか。ちょっと心許ないな。まあパッチテストの結果にもよるが……」

「あの、サラザールもカウントしてください、一応。もしかしたら使うタイミングがあるかもしれないですし……」


世の中何があるかわかんないからね……。もしかしたらコガネムシ大活躍の場面があるかもしれない。本当に天文学的確率のような気がするけど。


「ん、わかった。じゃあ四つか。……あ、そういや笠原の血も持ってきてるんだった」

「笠原の血、ですか?」

「そ。初日に使ったろ?笠原は日本のだし」

「そうでしたっけ……。どういう『血の特異性』でしたっけ?」


『血の特異性』って種類が多すぎて、私は未だ名前と能力が対応していないのだ。

そういうのもこれからちゃんと覚えないと。


「あれだよ、なんでも溶かすやつ。あの、適性全く関係ないやつ」


ああ、はいはい。それね。

三保瑛人の話で思い出したが、笠原の血というのは硫酸の如くあらゆるものを融解してしまうという『血の特異性』だ。

なんでもその笠原の血は世界的に見てもほぼ唯一適性が全く必要でなく、万人が使えるものらしい。

溶かしたいものに掛ければ世の中の大体のものは溶け消えてしまう。


まあ確かに、笠原の血以上に護身用に適した血はないだろうな。


「取り敢えず、土曜の出動には笠原の血も含めて五つ全部持って行け」

「はい」


私ははあ、と大きく息を吐いて腕時計を見た。すると、なんと定時を回っているではないか。

うわ、そんなに時間経ってた?全然気が付かなかった。やっぱり特訓をやっていると時間が過ぎるのが早い。


「もう定時過ぎてますね。三保さん、お時間大丈夫でしたか?」

「ああ。元々今日は常盤のための日だったからな。他に用事はない」


私はその三保瑛人の言葉に目を見張った。

私のための、と彼が思っていたことが意外だったのだ。

今日は色々と三保瑛人に迷惑をかけ通しだった。

私は、彼がそれを煩わしく感じているのだとばかり思っていたのだ。


「今日は私のために色々とありがとうございます。一日中ずっとお世話になりっぱなしで……。いつか絶対お礼をします」

「良いよ、そんなの。それに一日中ずっとは言い過ぎだ。特訓は午後だけだろ?」

「いえ、高坂さんの件がありますから」

「……気付いてたのか」

「それは、あそこまであからさまだったら気が付きますよ」


あんな無理矢理な話の持って行き方だったら誰だってわかるだろう。

三保瑛人はきっと、私と高坂流亥の仲を案じて二人きりの状況を作り上げたのだろうと。

余りにも強引だったけど、確かにそのくらいしないと私たちが真正面から話すこともなかった。しかも現実に私と高坂流亥の仲は好転している。


「ありがとうございます。お陰様で高坂さんのこと、怖くなくなりました」

「やっぱり怖いと思ってたのか。まあ高坂も色々張り切ってたからな。後輩ができたら自分がちゃんと面倒を見るんだーって。で、あいつって見るからに努力が空回りしそうなタイプだろ?常盤が入ってきて案の定だったからな」


私は三保瑛人の言葉にふふっと微笑んだ。

後輩のためを思って厳しい先輩になろうとしていたのだけど、高坂流亥は元々威圧感のあるタイプだからそこに意図的な圧が加わるとただただ怖い人になってしまった、ということなんだろう。

確かに空回ってる。


「まあ、常盤が上手くやれてるなら良かったよ」


そう言って三保瑛人は柔らかく微笑んだ。


……なんというか、この人はこんなに優しかっただろうか。

いや、違う。別に三保瑛人が情のない人間だと思っていたわけじゃない。

ただゲームでの彼はもっと飄々とというか、自由人の気質が強かったように思うのだが……。


だから、私の口からは自然と疑問が突いて出た。


「どうして三保さんは、私のためにそこまでしてくださるんですか?」


私の言葉を耳にした三保瑛人は少し瞠目して、それから手を口元に添えた。

そしてその視線を私から少し逸らす。


「……別に、大したことはしてないだろ」

「そんなことはないでしょう。あの……サラザールの血?とかゲルレロの血?とかって物凄く貴重なものなんですよね?」


つい先ほど三保瑛人自身がそう言っていたはずだ。

そもそもあんな法外な能力を持つ血が湯水の如く湧いて出てくるわけがないし。

ローレルですら数百ミリリットルほどしか持たない血を態々私のために、というのはありがたいけれども少し違和感のある話だ。


「態々ローレルに血の使用を掛け合ってくださったということですよね?ありがとうございます。でもどうして……」

「ああ、それは違う。さっきのは全部、俺が持ってるやつ」

「はい?」


何言ってんだ、この人。

『血の特異性』の個人所有って……それは結構グレーなのでは……。

いや、この人は研究者だから良いのか……?


「そうだそうだ、言い忘れてた。俺からこれ貰ったって言うなよ、誰にも。バレると結構まずい」


おいおいおい。ちょっと待て。

私、知らんうちに犯罪に加担させられてないか?

やだよ?お縄とか懲戒処分とかごめんだからね?


「いやいや、やっぱり血、良いです。大丈夫です。第一系統だけでなんとかします」

「遠慮すんな。常盤に死なれたら困る。色々とめちゃくちゃ困ったことになるから、持っといてくれ」

「いやいやいや、大丈夫ですって。私は清く生きるって決めてるので……。理想的な公僕でいると心に誓ってるので……」

「大丈夫だって。バレても捕まりゃしない。多少古瀧さんにシメらるかもしれないけど」


それは全然大丈夫じゃないよ。

古瀧さんって、開運グッズに目のない人って側面もあるが、それでもローレルの長官なんだよ?


私が渋い顔をしていると、三保瑛人はすっと真剣な表情をした。


「俺は『血の特異性』なんて殆ど使えない。だから、こういう方法をとるしかない。これが俺にできる最大限だ。常盤を守るためにはこうするしかない」


三保瑛人は私の目を真っ直ぐにみつめて確かに一つずつ言葉を重ねていく。


「自分でしたことの責任は全部自分で取る。常盤に迷惑はかけない。だから、お願いだから、俺の言うことを聞いてくれ」


三保瑛人はあんまりにも真剣だった。

だから私もそれを信じないわけにはいかないと、直感的にそう思った。

私はこくりと頷く。

すると三保瑛人はほっとして表情を緩めた。


やっぱり、三保瑛人がどうしてここまで私のことを気にするのか疑問は尽きないけれど、彼が悪意から行動しているわけでないのは確かなようだ。

ならば、まあ、今はそれで良いじゃないか。

面倒ごとは実際に起きてから考えれば良いのだ。


余談であるが後日、私の腕のパッチテストは両方とも適性ありと出たとだけ言っておこう。



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