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作者: 佐賀かおり

某サイトのコンテスト用に書きました。

 残暑厳しい甲子園球場。

 通称『夏の甲子園』

 十八日間の長き激闘を制し真紅の大優勝旗を手にしようと神奈川県代表Y高校と茨城県代表S高校による決勝戦が行われていた。

 攻めるは茨城県代表S高校だが一点リードされ更に九回裏のツーアウトと後がない状態である。

 対して守るは一点リードしあと一つアウトを取れば念願の優勝となる神奈川代表Y高校。

 だが何故かマウンドに立つピッチャーの額からは汗が流れ落ちていた。

 

「守るY高校。九回裏、ツーアウトですが勝利を目前にして、この局面ですね」

 アナウンサーが言うと隣席の解説者は(うなず)き声音を一段下げて重々しく解説する。

「野球はツーアウトから、と言います。一点リードしているとはいえ次のバッターはこの試合、二打席二安打と好調な田中くんですからね。同店ホームランでも打たれたら試合は振り出しにもどり延長戦になってしまいます」

 

 もったいぶって解説者は言ったがそんな事はマウンド上のピッチャーは百も承知だった。

 だから冷たい汗を流しているのだ。

 そしてそんなピッチャーを勇気づけようとY高校の応援団の応援にも熱が入る、皆が声をからして「ワンアウト、ワンアウト」と叫ぶ。


 全国放送されているテレビ画面にその模様が映し出されアナウンサーが中継する。


「Y高校応援団の一致団結した力強い応援、マウンド上のピッチャーにもきっと届いている事でしょう」

「そうですね。スタンドの応援団だけでなくテレビを見ている神奈川県民の全てが今、彼にエールを送っているに違いありません」


 突如、画面が切り替わり茨城県代表S高校の応援席が映し出された。だが……


 意外にも静かだった。


 Y高校の応援に負けじと熱気あふれるパフォーマンスをしているかと思いきや、どこか白けたような雰囲気で制服姿の女子高生の中には涙ぐんでいる者もいる。


 予想外の光景にアナウンサーは取り(つくろ)う様に中継する。


「……祈り、静かな祈りを彷彿(ほうふつ)させる応援。並々ならぬ気迫を感じます」

「……そうですね。茨城県代表S高校としてはなんとしても点が欲しいのでしょう」



 その言葉を聞いたJKの瞳からハラリと涙がこぼれ落ちた。


 彼女は思っていた。


 点はいらない……さっきからずっと『いばら()、いばら()』って連呼して『いばら()』が正しいの。濁点(だくてん)はいらない……点はいらないの

 

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